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「陛下の命令だ」
浩然は李帝国の皇帝の言葉に逆らわない。
李帝国の民ならば、皇帝の意思は絶対である。
それは四大世家であっても同じだ。
「賢妃としてだけではなく、宦官の真似をできる有能な人材を差し出せと。そのような真似ができるのは玄家では香月だけだ」
浩然の言葉は忌々しそうに握りしめられた手紙に書かれていたものだろう。
翠蘭の死と共に新たな賢妃に相応しい人材を差し出すようにと、皇帝の直筆で書かれた手紙を見なかったことにはできない。名指しこそはされていないものの、条件を満たせる者は一人しかいなかった。
……私が次の賢妃か。
翠蘭の仇と遭遇することになるだろう。
お飾りの賢妃を死に追い詰めたと有頂天になっているかもしれない。
……翠蘭姉上。貴女の仇を討ってみせます。
相手が誰なのか、わからない。
しかし、香月が賢妃となれば鼠は再び齧りつこうとするだろう。賢妃の座を狙う鼠にとって、香月は新たな餌食でしかない。
「玄香月。荷の準備が出来次第、速やかに宮廷に向かえ。後宮では玄賢妃として振る舞い、陛下の宦官としては玄 梓睿を名乗るように」
浩然の言葉を聞き、香月は反射的に顔を上げた。
浩然の言葉は絶対である。
しかし、それでも簡単には受け入れられない言葉が含まれていた。
「父上。玄梓睿は私の義弟の名でございます」
香月には血の繋がらない義弟妹がいる。
彼らは玄家の血族の者であり、武功を認められて当主の正妻である玥瑶の養子として迎え入れられた。その多くは香月の従兄妹や又従兄妹である。
香月は実の弟妹のように、義弟妹たちを受け入れてきた。
……春鈴のようにはならないだろうか。
五年前、五歳の誕生日に首を離れた妹、玄春鈴の最期の姿が頭を過る。
……梓睿は優秀だ。しかし、父上の計画の支障になれば消されかねない。
梓睿は義弟妹の中でもっとも優れている。
いずれは香月の右腕になるだろうと噂されており、それを最大の誉め言葉であると心から言うような義弟だった。
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