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「玄家の娘は香月以外にもいるというのに。旦那様はどうして香月を指名なされたのか。私には理解ができませんわ」
玥瑶は香月だけではなく、香月の荷を片付けている侍女たちにも聞かせている。香月付きの侍女の多くは、香月に付き従う形で後宮入りが決まっている。
「亡くなったあの娘のようなことにはならなければよいのですが」
「ご安心ください。母上。香月は玄家自慢の道士です。修練を続ければ、いずれ仙女に選ばれるとさえ言われているのです。そう簡単に負けはしません」
「ええ、ええ。よく知っています。香月は玄家の当主になるべく、私が自らの手で育てたかわいい娘ですもの」
玥瑶は香月のことを気にいっていた。
複数いる実子の中でも特に気にかけてきた。
「それでも、母は、香月を見送るようなことだけはしたくはなかったです」
玥瑶は、皇帝陛下の直筆による催促の手紙さえなければ、玥瑶は香月の妹である玄 紅花を推薦していたことだろう。
十三歳になったばかりの次女を皇帝陛下に差し出すことに抵抗はない。
幼すぎると非難をされれば、玄家よりも先に後宮入りをした徳妃、朱 万姫と同い年であると事実を述べれば、周囲はなにも言い返せないはずだ。
「いつも母のことを思いなさい。香月。母は北の地から、愛しい娘を思いましょう」
玥瑶は別れを惜しむ母のように言葉を口にする。
……思ってもいないことを。
香月は知っていた。
玥瑶にとって子どもは駒だ。
玄家の直系である玥瑶が当主を引き継げなかったのを心の底から悔やんでおり、自分の血の濃い子どもを次期当主の座に座らせることに執着をしている。
……私という駒を手放すのがそれほどに惜しいのか。
香月は玥瑶に愛されていた。
それは娘としてだけではなく、利用価値の高い駒としても愛されていた。
……母上らしい考えだ。
玥瑶は誇り高い玄家の人間だ。子を手放すのを惜しんでいる母のような真似をするものの、その実力は玄家の中でも上位に位置する。
香月の武術や武功の指導は玥瑶が行った。玄家の武人ではなく、当主の妻を師匠としているのは香月だけである。
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