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「はい。母上。香月はいつも母上のことを思っております」
香月は思ってもいない言葉を口にした。
そうすることにより、玥瑶の暴走を防げるかもしれない。その可能性に賭けることでしか、香月は玥瑶を止めることができなかった。
「母上の娘としてお役目を果たしてまいります」
香月の言葉に玥瑶は感動をしたかのように、涙を指で拭った。
そして、香月を包み込むように優しく抱きしめる。
「香月。香月。私のかわいい香月」
玥瑶は別れを惜しむように何度も名を呼ぶ。
それから香月の耳元に唇を寄せた。
「貴女は玄家の当主になるのです。必ず、生きて戻ってきなさい」
玥瑶は香月の耳元で囁いた。
他の誰にも聞かれることがないように、最愛の娘との最後の別れを惜しむかのような振る舞いをしながらも、玥瑶はなにも諦めてはいなかった。
「幸せになるのですよ。香月。母のかわいい香月。貴女はなにも諦めてはなりません」
玥瑶は香月をゆっくりと腕の中から解放する。
侍女たちには香月の幸せを願う母の姿しか見えていなかっただろう。
……欲深い。
香月は玥瑶の欲深さを知っている。
だからこそ、武功の達人でありながらも仙術の才には恵まれず、玄家に所縁のある仙人たちが残したとされる宝貝には触れることさえもできなかった。
仙人の域に辿り着く可能性はない。
玄家の直系でありながらも、宝貝に拒絶をされたほどに欲深い。その欲は留まることを知らず、目的の為ならばどのような手段でも取ることだろう。
香月はそれが恐ろしく感じていた。
しかし、母として娘を案じている気持ちも本物である。腹を痛めて産んだ子に対し、憎しみだけを抱いている親ではない。
「母上のおおせのままにいたしましょう」
香月は母の愛を知っている。
利用価値の高い駒としてではなく、玥瑶の娘として別れの挨拶を口にする。
その姿は今生の別れのようであった。
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