第一話 玄翠蘭の死

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 だからこそ、先々代皇后は当時の四夫人の暗殺という暴挙に出たのだろう。手に入れてしまった権力に溺れ、欲に溺れた先々代皇后は四神の怒りを買い、非業の死を遂げた。  香月は先々代皇后の悲劇を知らない。  しかし、それは二度と起きてはならないことだと幼い頃から父親に言い聞かされてきた。  ……後宮に異変が起きたのだろうか?  香月は後宮に関係する物事の詳細を知らない。  香月は後宮に関わることがないように育てられており、今では北部地域を代表する玄家の次期当主であり、玄家が誇る道士でもある。玄家にだけ伝わる武功や呪術の多くを自分のものとし、その実力は玄家の祖である初代当主に迫る勢いだ。  だからこそ、異変に気づいてしまった。  ……守護結界は四夫人の気功によるもの。  本来、守護結界に皇帝の力を注げばいい話だった。  皇族である李家に流れる瑞獣、麒麟の力を元に作られたものを四神の守護を持つ四大世家の力を代用しようなどと考えたのが、間違いだったのかもしれない。  ……四夫人になにか起きたのか?  嫌な予感がする。  皇帝の妃である四夫人の一人は、香月の異母姉だ。  父親の妾が産んだ娘であり、玄家の一員として認知するなどの条件を受け入れ、三年前、後宮に送られていった。  先代皇帝の急死に伴い、若くて即位をした皇帝の為に大幅な人員の入れ替えが起きたことにより、四夫人も再構成されたのだ。代々四夫人は四大世家から輩出することが決められている為、玄家は急遽当主の娘を用意しなければならなかった。  ……翠蘭姉上。  そこで選ばれたのが異母姉だった。  異母姉、(シュエン)翠蘭(スイラン)は物静かな女性だった。  奥屋敷の寂れた物置小屋に足の悪い母親を手伝いながら、その日暮らしを強いられてきた。息を潜めて、不平不満を心の奥に閉じ込め、ただひたすらに母娘だけで生きていた。  翠蘭の日常は、瞬く間に変わってしまった。
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