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母親の待遇改善と母親の幸せを願い、武功を身につけることなく、後宮の賢妃の座に座らされた。
そんな哀れな異母姉の姿を思い出していた。
……貴女の身になにか起きたのだろうか。
香月は翠蘭と言葉を交わしたことはない。
三年前、賢妃になることを条件として一族に迎え入れられた日に翠蘭は籠に乗せられ、宮廷へと連れて行かれた。その姿を遠目で見ることしかできなかった。
なにひとつ、声をかけることができなかった。
許されなかったのだ。
次期当主候補の筆頭である香月は翠蘭を認めていないという姿勢を貫くように、実母からきつく言い聞かされていた。実母は妾の存在を快く思っておらず、翠蘭の後宮入りにより本邸に居場所を与えられた妾を敵視していた。
香月も実母の思惑を知っていた。
しかし、逆らうことなどできなかった。そうすれば、愛娘を弄んだと言いがかりをつけて当主の妾を甚振るだろうと、簡単に想像できたからだ。
「香月お嬢様!」
名を呼ばれ、香月は慌てて振り返る。
慌ただしく駆け寄ってきた青年、王 雲嵐の顔色は青ざめていた。
「雲嵐? 夜分は外に出るなと言い付けただろう」
香月は雲嵐の頬に手を伸ばす。
……冷たい。
吹雪は止んだが、雪が溶けることなく積もっている。武功で体温を上げている香月とは違い、武功の習得に恵まれなかった雲嵐の体は冷え切っている。
雲嵐は病弱なわけではない。
しかし、香月よりか弱く、男性にしては細身である。顔さえ見られなければ女性と思われてもおかしくはない見た目をしていた。
「お、お嬢様。その、手を離してください」
「どうして?」
「距離が近いのです。乳母子とはいえ、旦那様に叱られてしまいますので」
雲嵐は目線を泳がせながら、必死に言い訳を口にする。玄家当主の娘と玄家に仕える女官の息子では、まともに近づくことさえも許されない。
雲嵐の言葉は正しかった。
……寂しいと思うのは私だけだろうか。
香月は雲嵐の頬に触れるのを止め、腕を下ろした。
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