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翠蘭は家族を愛していた。
だからこそ、玄家の一員として認められたかったはずである。
「翠蘭姉上は役目を果たされたのだろうか」
香月は翠蘭に思いを馳せる。
思い出を振り返るほどに関係のない人だった。しかし、母娘で生き残る為ならばどのような雑務であっても引き受け、口数は少なかったものの、ひたむきに生きようとしていたのは知っている。
……自身の限界を知らない人ではなかったはずだ。
玄家の武術も呪術も知らない人だ。
厄介な役目を担うことになったと知ったのも、おそらく、後宮に入ってからのことだろう。
……巻き込まれたのか。利用されたのか。
四夫人を良く思わない者は多い。
後宮は皇帝の跡継ぎを産み、育てる為の場所。女の花園と呼ばれてはいるものの、実際は女たちの醜い争いが度々生まれている地獄のような場所でもある。
皇帝に選ばれる為ならば、なんでもするだろう。
名家に生まれた娘ならば、手段を選んではいられないはずだ。
「いいえ。自死されたとのことです」
雲嵐が告げた言葉に香月は眉を潜めた。
……自ら命を絶っただと?
ありえない話だ。
翠蘭は実母を見捨てることはできない。
翠蘭が賢妃としての役目を果たさなければ、当主の妾である実母がどのような目に遭わされるのか、嫌というほどに知っているはずだ。
「なぜ、そのようなことになったのだ」
香月には理解ができなかった。
賢妃には玄家が選んだ侍女たちが仕えている。
夜伽でもなければ、一人になる機会はなかったはずだ。賢妃を支え、賢妃の為に生きるように教育を施された者たちだけが侍女として選出されている。
「詳細は旦那様だけに報告されております」
嵐雲の言葉を聞き、香月は足早に歩き始めた。
玄家の当主である父親、玄玄 浩然は香月を待っている。嵐雲に伝言を託したのも、緊急事態の発生を知らせる為だけではない。
……私が出向く事態になったのだろう。
次の賢妃は香月が選ばれるだろう。不思議とそんな予感がしていた。
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