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人力でかき分けられた雪の間を足早に歩く。
香月の後ろをついてくるだけの嵐雲はなにも言わない。
翠蘭の死を告げられた時、嵐雲は翠蘭に対し同情の念を抱かなかった。ただ、翠蘭の死により香月が後宮入りをする可能性が高まってしまったことに対する怒りを抱いた。
それを香月に知られたくはなかった。
だからこそ、嵐雲は口を閉ざしてしまった。
「香月お嬢様!」
浩然の居住区である本邸の門番は泣きそうな顔をしながら、香月の名を叫んだ。香月が浩然を訪ねてくることを知っていたようだ。
「父上に呼ばれたのだが」
香月の言葉を待っていたのだろう。
それだけで十分だと言わんばかりに門は開かれた。
「既に準備は整っております。ご案内いたします」
夜分遅い時間にもかかわらず、本邸では多くの従者たちが働いていた。従者たちに紛れるように体術の基礎を繰り返し、練習をしているのは玄家を名乗ることが許されている者たちだろう。
玄家は一族だけに気功を使った武術を教えている。
それらを完璧に自分の力にした者たちだけに、玄家に代々伝えられてきた呪術が伝えられることになっている。その為、武術だけではなく、呪術の大半も自分の力にすることができた香月を次期当主として意識する者ばかりである。
その者たちから向けられる尊敬と期待の目に、香月は応え続けてきた。
いずれ、一族を率いるのは自分であると思っていた。
その前提が壊れようとしているのにもかかわらず、不思議と恐怖を感じなかった。
「旦那様。香月お嬢様をお連れいたしました」
案内役の従者が扉越しに声をかける。
すると、扉は内側から開けられた。浩然の側近たちも控えていたようだ。
「父上。玄香月、参りました」
香月は浩然に対し、教えられた通りの挨拶をする為に口上を述べようとしたが、公然は首を左右に振った。
「挨拶は不要だ。入れ」
浩然の言葉は絶対である。
香月は膝を付こうとしていた姿勢を元に戻し、速やかに浩然の傍に近づく。
部屋の扉は閉められた。
香月の侍従として付き添っていた嵐雲は廊下に立たされたままだろう。
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