SS「知らない言葉」

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僕は、生まれてからこの病院にずっと入院している。僕は病気なのだそうだ。 病院の院長先生は、僕たちをとても大切にしてくれる。その院長先生が少し変わっているというのは、みんな知っていることだ。彼は突然変異で生まれた存在で、二足歩行でお猿さんのような姿をしている。それでも、先生は僕たちにとってかけがえのない存在だ。 院長先生はいつも優しくて、とても賢い。僕たちに対して親身になってくれるし、時には冗談を言って和ませてくれる。でも僕たちが悪いことをすると、「そんなことをすると食べちゃうぞ」と言うことがある。それが本当か冗談かは分からないが、僕はその言葉が怖くて仕方なかった。 ある夜、僕はベッドで眠れずにいた。隣の病室から院長先生の声が聞こえてきた。「明日は彼の番か」と、僕の名前を口にしているのを耳にした。僕の心臓はドキドキと激しく鼓動を打った。院長先生が僕に何をしようとしているのか、それが怖くて、頭の中でいろいろな考えが巡った。 もしかしたら、院長先生は本当に僕を食べるつもりなのかもしれない。そんな不安が胸を締め付ける。あの二足歩行のお猿さんのような院長先生が、僕たちブタ族をどうしようというのだろうか。僕は眠れない夜を過ごし、ベッドの中で震えていた。 翌朝、院長先生が病室にやって来た。院長先生の優しい笑顔を見ても、昨夜の言葉が頭から離れない。「今日は特別な日だよ」と言われ、僕はますます不安になった。院長先生に連れられて、僕は病院の特別室に案内された。 特別室には、僕の家族や友達が集まっていた。みんなが笑顔で僕を迎えてくれた。院長先生はにこやかに言った。「今日は君の誕生日なんだよ。みんなでお祝いしよう」 僕は驚きと喜びで胸がいっぱいになった。院長先生の言葉の意味を誤解していたのだ。彼が言っていた「明日は彼の番か」というのは、僕の誕生日を祝うための準備だったのだ。院長先生が食べちゃうと言っていたのは、ただの冗談だったのだ。 その日、僕はみんなと一緒に楽しい時間を過ごした。ケーキを食べたり、プレゼントをもらったりして、心から幸せな気持ちになった。院長先生も僕たちと一緒に笑い、楽しんでくれた。 夕方、僕は疲れたのでベッドに戻った。これまでの不安が嘘のように感じられた。院長先生のことを信じて、これからも頑張ろうと思った。病気と闘うのは大変だけど、優しい院長先生と一緒なら、きっと大丈夫だ。 院長先生も病室についてきてくれて、眠る寸前まで僕の手を握っていてくれた。僕は静かに目を閉じ、深い眠りに落ちていった。その時、院長先生は言った。 「しゅっかは、この後か」 しゅっかとはなんだろうか。知らない言葉だった。その疑問は、眠たさに勝てなかった。そして僕の顔に、何か水みたいなものが当たった。それも全部、明日になれば分かるんだ。ともかく今日は寝よう。おやすみなさい。
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