私はそれを「魔法」と呼ぶ

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 この小屋に、私はひとりで住んでいる。  毎日のように来てくれるのは、レティだけ。ほかに人が訪れるとしたら、父さんが三日置きに食料を荷車で運んできてくれるくらい。そんなふたりとも、私は窓越しにしか話さない。魔道で傷つけてしまう可能性があるから、私は小屋を出られないのだ。  ――ときどき、この世界には不思議な力を持って生まれる者がいる。  魔物に魅入られ、魔道に堕ちた者たちだ。それが、私。  力が現れたのは、私が六歳のころ。となりの家に住んでいた男の子が、私の黒髪を引っ張った。その子はいつも乱暴で、私は泣かされてばかりだった。いつもはレティがかばってくれたけれど、その日彼女は熱を出して寝込んでいた。  だれも助けてくれなくて、私は怖くて仕方なかった。そのとき、炎が生まれたのだ。なんの前触れもなかった。わたしを中心に、炎の風が吹き荒れた。  男の子は手を火傷した。でもそんな怪我に気づいていないように、彼は私を呆然と見ていた。その顔は、今も頭から離れない。 『ルーナは魔道に堕ちた』  噂は瞬く間に広がった。父さんは「これ以上ルーナが虐げられないように」と、私をこの小屋に移した。それ以来、私はずっとここにいる。  仕方ないことだ、と思う。炎が現れたのはあのときだけだ。でもいつ、また暴走するかわからない。  それでも、レティは毎日私に会いにきてくれる。レティといる時間だけが楽しかった。  棚に置いたキャンディの瓶を、私は見つめる。カラフルなキャンディに、口もとがほころんだ。
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