私はそれを「魔法」と呼ぶ

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 けれどローレンが来る前に、父さんがやってきた。父さんは食料を積んだ荷車を扉の前につけると、窓辺に立つ私を見て不思議そうな顔をした。 「ルーナ、楽しそうだね」  私は頬に触れる。また笑っていたのだろうか。 「いいことがあったなら、よかったよ。今日もレティが来てくれたのかい?」 「うん。えっと、それからね……、ローレンって女の人が、昨日、ここに来て」  そうだ、父さんにも話しておかなければ。きっと父さんも喜んでくれるはず。 「あのね。私、ここから出られるかもしれないの。そのローレンって人が、力の使い方を教えてくれるって言ってて。すごいんだよ、ローレン、魔道を自分の意志で使っていたの。私も自由になれるはずだって。だからね」  私はそこで、言葉を止めた。父さんが、顔を青くしていることに気づいたからだ。 「父さん……? どうかしたの?」 「――ここから、出る? 出たいのかい、ルーナは」 「え?」  それは、出たいに決まっている。だけど私は、そう返せない。たぶん、きっと、父さんがその言葉を望んでいないと察したから。 「ルーナ」  父さんが、硬い表情で言う。嫌な予感がした。 「外に出るなんて、考えてはいけないよ」 「え?」 「ここから出たら、また人を傷つけるかもしれない。そうしたら、ルーナも嫌な思いをするだろう。魔道を使いこなすなんて、できるわけがない」 「だ、だけど、ローレンは、ちゃんと使っていたの」 「だれなんだい、その女は。いや待て。もしかしたら、その女は魔物だったんじゃないのか。魔道を自在に扱うなんて」  魔物? ローレンが? 「ちがう、そんなんじゃ……」 「ルーナ!」  鋭く叫ばれて、私は身体を硬くした。 「おまえはここから出てはいけない。いいね」  父さんはわたしに強く言い聞かせて、背を向けた。私はなにも言えなかった。  ここから出ることは許されない――それって、いつまで? 一生?  ちがう。力を使えるようになるって、ローレンはそう言っていた。私は自由になれるって。私は、ここから出られるはずだ。やっと見つけた、救いの手だった。ここで諦めたくない。 「父さん」  追いかけよう。ちゃんと話してみよう。そうしたら、きっと父さんだってわかってくれる。だけど、扉を開けようとして、気づく。開かない。鍵がかかっている。  父さんだ。外から鍵をかけたんだ。私をここから出さないように。 「なんで」  私がそんなに信用できない? だけど私は、この力を使える。使える、はずだ。扉に触れる手に、力を込める。大丈夫、ローレンが言っていたんだから。  開いて。  願うと、手から炎が生まれた。私は思わず手を引っ込める。炎は、扉だけを器用に燃やした。扉はまたたく間に黒く染まり、ぼろぼろと崩れていく。 「――使えたんだ。魔道を、自分の意志で」  胸が鳴った。身体が熱い。ほら、やっぱり、ローレンの言葉は嘘じゃなかった!  私はすぐに駆け出した。
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