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「私が話すより前に、大学の卒業が決まったので結婚するのだと伝えられました。相手は幼い頃から知っている恋人で、花火の話を書いた手紙の差出人だったとも」
「……」
「正直、ショックでしたし邪な考えもよぎりました」
「邪な、考え?」
コクンと頷いたクリスさんは寂しげに笑った。
「先生に混乱スキルをかけて、自分が恋人に成り代わってしまおうか、と」
「!」
「なんて、もちろんそんなことはしませんでしたよ。ただ、その時にはもうそれくらいの制御はできていましたから……。自分も卒業と軍の魔術部隊に配属が決まったことを伝えてその場は別れました。しばらくは傷心状態でしたが、配属直後に開戦しましたからね。先生への想いは薄れていきましたし……」
と、クリスさんが話したところでドアがコツコツと控えめにノックされた。が、中々開く気配がない。気のせいだったかな、と話に戻ろうとしたがクリスさんはため息をついて立ち上がりドアを開く。
居たのは先ほどの小柄な女性だった。両手でお茶やお菓子の乗ったトレーを持って肩を落としている。
「……先生!」
「ありがとう、中々気づけなくてごめんね」
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