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 事務所へ戻った2人は、写真やリサーチしたデータを入力して一息ついた。 「それにしても、コンサルを専門にされてる方の分析力は(すご)いです。  私はまだまだで ───」  神楽は瑞樹の4つ下だが、童顔で高校生のようなあどけなさがあった。  ブラインドの隙間(すきま)から夕日が規則的な筋を落とし、空気が少しひんやりとして来ていた。  自分より経験が浅いデザイナーと共に行動することで、瑞樹の脳裏にあった もやもやが晴れつつあった。  隣りにいなくても、(てのひら)で転がすように思考の(あや)を解きほぐしていく。  同じ土俵で戦い続け、負け続けている辛さに飲まれかけていた自分の心情を理解して、絶妙なパートナーを選んでくれた。  だが、分かっているからこそ従えない。  自分の意地を通したい気持ちが、背後で陽炎(かげろう)のように黒い炎となって ゆらめくのを感じた。 「それで、SDGsに関連したイベントを企画して欲しい、というのが今回のメインの仕事ですよね」 「率直に、どんなイメージ持った」  瑞樹は鋭い視線を向けた。 「2030年を目標に、持続可能な社会を作る良い行いリストですか」 「ちょっと違うわ。  将来の世代を意識することによって、企業の利益を産みだす取り組みと言った方が今回の案件には合うんじゃないかしら」  頬杖(ほおづえ)を突いた神楽の眉間(みけん)縦皺(たてじわ)が刻まれる。  2人とも、しばらく唸ってはパソコンで何かを調べていた。  ふと、文月の机に視線をやると、書置きがあった。 「今日は直帰します。  明日、別の件でセレストへ行くので、進捗(しんちょく)報告を一緒にしてください。 文月」  今日の明日で報告するのか、とため息をついた所で神楽が立ち上がった。 「リサイクル商品を提案するとか、お客さんが増えるようなクーポンとかセールとか作りましょうか」  違和感を隠せない瑞樹の表情に、神楽も少し(ひる)んだが決然とした覚悟を眼差しに秘めていた。 「そうね、まずは具体的な提案が必要でしょうね」  曖昧(あいまい)な返事をして、残りの仕事は各自家に持ち帰ることにした。
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