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翌日、文月も黒いジャケットに黒スラックス、黒シャツでカンカン帽といういで立ちである。
3人がセレストのロビーで手持無沙汰に待っていると、買い物客が好奇の目を向けてきた。
「何かのコスプレだと思われてるんじゃないかしら ───」
「もう、なんでこのファッションなんですか」
苛々を爆発させた瑞樹は、ついに文月に詰め寄った。
「君も、大体理解していると思うのだけどなあ ───」
あさっての方向を見ながら、手のひらを返して大袈裟に肩をすくめたポーズが、妙に似合っていて次の言葉が出なかった。
「まあまあ、楽しんでいきましょうよ」
神楽は足を組んで腰に手をやり、床に視線をやって不可解なポーズを取る。
まるで3体のマネキンが身を捩っているように、近付き難いムードを醸し出していた。
「ああ、文月さん。
瑞樹さんも、お世話になります」
先日の青山部長が奥へと促した。
通用口を入り、会議室へ入ると文月が切り出した。
「セレスト様の成長戦略を考えてきました。
その前に、瑞樹から報告があります」
目くばせを受けて、バッグからタブレットを取り出した瑞樹は、テーブルの端に置いて話し始めた。
「名付けて『氷のメッセージ ~ 人影が語り掛ける未来 ~ 』です。
氷屋さんの低温でじっくり作った純氷を人型に並べます。
もう一つは黒い紙の上で同じように人型を作るのです。
人間が生きていくためには、氷が自然な状況に保たれなくてはならない。
つまり、地球温暖化に対するメッセージが込められているのです
いかがですか、この企画で注目度爆上がりですよ」
言い切った瑞樹は、糸が切れた操り人形のように椅子にストンと落ちた。
青山部長は、ポカンと口を開けたまま液晶画面を見つめている。
神楽は、不意打ちでも食らったように目を見開き、瑞樹の横顔を凝視したままである。
顎に拳を当てたまま、瞑目していた文月は静かに目を開けた。
瑞樹が唾を飲み込む音が、神楽の鼓膜を揺らした。
「これで、大丈夫ですか」
おずおずと青山が声を絞り出す。
机に視線を落とし、また瞑目した文月はコクリと頷いた。
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