Days15 岬

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Days15 岬

 教室が休み時間のざわめきに包まれている中、彼は机についたまま真剣な目で何かのパンフレットを読み込んでいる。  クラスメートの男子がそれを見つけて近づいていく。 「なに、車の免許?」  よくよく見ると、彼の手にあるのは教習所のパンフレットだった。 「いや、バイク」 「バイク興味あるんだ」 「そう、十八歳になったから大型二輪取れるじゃん、と思って。まあ実際には大学に入ってからバイトでこつこつ教習所代稼いでからになると思うんだけど、今のうちに相場を知っときたくてな」 「大型二輪? かっけー。でも清森には似合いそう、お前基本イケメンじゃん」 「似合う似合わないじゃないの。俺はただただ雪と二人乗りしたいの」  聞き耳を立てていたわたしは飲んでいたアイスティーでむせた。女の子たちが「大丈夫?」と声を掛けてきてくれる。 「乗らないわよ、バイク。危ないでしょうが」  少し離れたところからそう主張すると、彼がこちらを向いた。何でもない顔をしている。いつもそう。憎たらしい。 「一緒に海に行こうぜ」 「海なんてすぐそこにあるでしょう、駅からバスで十分ぐらいのところに」 「伊豆に恋人岬というのがあってえ」 「そういう恥ずかしいこと言うのやめて!」  クラスメートたちがくすくす笑う。 「ええ、いいじゃん。行ってあげなよ」 「ラブラブですなあ」 「カップルでツーリング、かっこよすぎか」  さらし者になった気分。
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