Days21 自由研究

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Days21 自由研究

 お母さんがこども食堂のボランティアに行く前にこんなことを言い出した。 「今日は天くんもボランティアしにこども食堂に来てくれるらしいから、雪ちゃんも行かない?」 「えっ? 天が? いつどこでそんな話になったの」 「さっき誘ったらいい返事が来たわよ。LINEで」 「LINEで」  いつ交換したのだろう。わたしの目を盗んでわたしの母親と彼氏が親しくなっている! 双方ともわたしの知らないところでわたしに関して余計なことを言ったりしたりしないか不安になる。 「夏休みで子供がたくさん来るから、高校生のお兄さんお姉さんもたくさん来てくれたら助かるんだけど、という話をしたの。本当に人手不足なのよ、子供たちはみんな大人に構ってほしがってるから」 「そうねえ、わたしら高校生が大人かどうかは議論の余地がありそうだけど」 「それで、天くんはそうやって情に訴えるだけだと釣れないかもしれないから、大学入試や就職試験の面接のときの話のネタになるわよ、という話もしておいた」 「あの人、そんなことに引っ掛かるタイプだったかな」  しかしそこでふと、自分で言っておいてなんだけど、高校生が大人かどうかは議論の余地があり、つまり解釈によっては子供だと思っている人がいるかもしれないと認識しているわけだ。そしてたぶんうちの両親は高校生を子供だと思っているタイプで、彼のことも夏休みにお腹を空かせている子供だと思っていそうで、それで彼を呼び出したのかもしれない。  うまい手法だ。世話をする側としてもされる側としても、出てきたらせっかくだから一緒にご飯を食べるという話になるはず。そうすると、彼に食事を取らせ、学校のない期間の暮らしぶりを顔色や服装や、ひょっとしたら髪の色などからもチェックできる可能性もある――一昨日見た時点では黒髪だったけど、昨日や今日の昼間に何があるかはわからない。  お前は世話をされる側の可哀想な子供だからご飯を食べに来なさい、と言われてのこのこ出てくる高校生はあまりいないと思うから、そういう手段もあるのだろう。ひょっとしてマニュアルがあるのかもしれない。大人たちもあの手この手を考えるものだ。 「子供たちの夏休みの宿題を見てあげてくれたら嬉しいんだけど……。雪ちゃんも天くんもせっかく勉強のできる高校にいるんだから……」  勘のいい彼が大人たちのそういう思惑に気づいていたとしたらどうだろう。適当に合わせておいて適当に逃げるのではないか、などと心配になる。  いずれにせよ彼に何かあったらと思うだけで不安になるので、わたしも一緒に行くことにした。正直に言って、あまり機敏でない、機転の利くタイプではないわたしがいてもかえって邪魔なことのほうが多いのだけど、わたしが見ていたかった。  ――というわたしの懸念などまったくどうでもよくて、彼は母と約束したとおり高校の友達を三人連れて現れて小学生の自由研究を手伝ってふつうに食事をして帰っていった。杞憂だった。あいつはわたしよりはるかに大人なのだ。めでたしめでたし。
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