Days23 ストロー

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Days23 ストロー

 席に座って、包み紙を破って、中身を取り出して――彼は叫んだ。 「うわーっ! 紙ストローじゃん!」  わたしはぎょっとした。彼が大きな声を出したのが中学のサッカー部の試合以来だったからだ。つまりかれこれ三年ぶりくらいの声量だ。  彼はいつも落ち着いていて、動揺したところをひとに見せることはない。慌てたり焦ったり、という感情をどこかに置いてきているのである。だからクラスメートたちには大人だと言われているのだけど、今日みたいなことがあると、そう? という気持ちになる。こんなに些細なことで表情を変えることもある。 「最悪! うわっ! 知ってたら冷たい飲み物頼まなかったのに! 騙された!」 「何をそんなに怒って……」 「俺紙ストローに故郷の村を焼かれたから」 「あなたが生まれ育ったふるさとは今まさにわたしたちがいる市よ」 「くっそー、直接紙コップに口つけて飲むしかねえな」  プラスチックのふたをはずす。どろっとした半凍結タイプではなくさらさらの清涼飲料水でよかったね。 「雪ちゃん紙ストロー平気? 我が家では紙ストローは親を殺した存在として認知されてるけど」 「そこまで憎まれているの? 何がそんなに悪いかよくわからないんだけど」 「だってトイレットペーパーの芯に口つけてる味しない?」  一瞬考えてしまった。 「とっ、トイレットペーパーの芯に口をつけたことがあるの……?」 「え……ない……?」 「どんな人生を送ったらそんな機会が……」 「段ボールと同じ味がする」 「段ボールも口に入れたことない……」 「やあねえ、これがお育ちが違うってこと?」 「ちが……ちがうとおもう……!」  それからしばらく彼は何も語らなかった。
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