Days24 朝凪

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Days24 朝凪

 * * *  午前四時、海に出掛けた。空の向こう側は明るくなり始めていた。  朝焼けを撮ろう、と思った。  昨夜また妹と喧嘩をした。それでいらいらして眠れなくて、この時間になった。普段学校などで嫌なことがあっても飯を食って風呂に入って寝れば忘れられるのだが、妹だけはずっと自宅で一緒にいるのでいかんともしがたい。  妹だけはずっと俺の人生を掻き乱し続けている。  一緒に生まれた時からすでに失敗だった。  あいつはずっと愛想が良くて、要領も良くて、兄貴や姉貴の視線を独占するのが得意で、俺はいつの間にか誰にも注目されないのが当たり前になった。だからこそ思いついたことを全部やっても「清森さんちの下の男の子はやんちゃね」で済まされてきたのだが、あいつだけは「お前が馬鹿だから愛されないんだよ」と言う。邪悪な顔で。俺とよく似た顔で。  別にあいつには愛されなくてもいいのだが、気に食わないのが彼女の件だ。彼女はそれでも俺の妹のことを好きだと言うので、本当に腹が立つ。なんとか気を引いてみたけれど、体裁だけは恋人同士になってキスしたり抱いたりもしたのだけれど、彼女はいつもどこか俺の中に妹の姿を追い掛けているような気がして、何をしたら俺のことだけを愛してくれるのかずっとずっとずっとずっと考えている。  たぶん永遠に。  本当に欲しいものを手に入れようとすると必ず邪魔が入るのが俺の人生だった。  夜が明けて星が消えていく。  兄貴が高校を卒業した時、俺がまだこれから小学校三年生になるところだったという頃、一人遊びをしている俺に兄貴がおさがりのiPhoneをくれた。古いiPhoneはまだかろうじて動いて、写真を撮ることができた。当時はまだ自宅にWi-Fiがなくて、データ通信ができないiPhoneはカメラとしてしか使えなかった。でも俺はそれが嬉しくて、いろんなものの写真を撮った。兄貴が俺のためにくれた、というのが本当に嬉しかった。実のところ妹には姉貴のおさがりが渡っていたので、俺だけが特別なんじゃなかったけれど、それでも兄貴の愛情が俺に向かっていることを感じられてよかった。  夢中で写真を撮り続ける俺に、兄貴は高校の入学祝いとしてデジタル一眼レフを買ってくれた。以来、俺は古いiPhoneを机の奥にしまってデジタル一眼レフで写真を撮り続けている。  朝焼けと夕焼けが好きだ。美しい空はすべてを忘れさせてくれる。でも、この季節は八時くらいにはもう三十度を超えて夜も九時くらいまでは暑いから、外である程度まとまった時間空の写真を撮るには朝焼けの頃しかない。  自転車にまたがって東の空を追う。春はあけぼの、夏もあけぼの、秋もあけぼの、冬もあけぼの。  やがて海にたどりついた。  海と空の境界線、黄金色の太陽が顔を見せる。  背中のリュックサックから愛機を取り出して構える。  レンズ越しに空を眺めて、ああ、と思う。  これを背景に彼女を撮れたらどんなにいいだろう。華奢な体に光が当たり、肌が黄金色に輝く。風になびいていたまっすぐの黒髪がさらりと整う朝凪の時間。この静かな海を二人で独占する、二人きりの時間。  誰にも邪魔をされない、俺の時間。  そこに、彼女がいる。 * * *
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