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「宮仕えの話、早く承諾したらよかろう。」
諦めかけていた私に、思わぬ味方が現れた。
それは私が説得しようとしている女性の親戚とか何とかだっていう男で、御簾越しに女性と対面するなりケロッとした様子で「承諾しろ」と言ってのけた。
「…。」
オタクの君(勝手に命名)は、道長と対峙した時と同様ダンマリを決め込んでいる。オタクの君の表情を見てみると、すごく強張っていて、唇は血が出るんじゃないかってくらい強く噛まれていた。親戚の男は構うことなくしゃべり続ける。
「名誉なことじゃないか。道長様直々に出仕をお願いされているのだから。」
おおっ、いいぞいいぞ、その調子で出仕の方向に持っていっちゃって下さいよ!
私がしめしめとほくそ笑む隣で、オタクの君はやっぱり黙ったままだった。それを見て周りの女性たちは呆れたように溜息をついている。親戚の男はやれやれと頭を振った。
「いつまでそうして子供みたいに黙っているんだか。貴女はいつもそうだ。前も言ったことだが、貴女みたいに頭でっかちで、本ばかり読んでいるような変わった女にこうして道長様が声をかけて下さったこと自体奇跡のような話なのだから、断るなんて以ての外だろう。」
オタクの君の手が震えている。
顔は真っ赤で唇はワナワナ震えている。
親戚の男は鼻で笑った。
「無駄に賢しいんだから、私に何か気の利いた言葉の一つでも言い返したらどうだね?そんなだから、皆に馬鹿にされるのだよ。少しは我が一族の役に立て。そうすれば私の出世にも繋がる。」
「ちょっと!!」
気づいたら私は御簾を搔い潜って、親戚の男の前に飛び出ていた。男はいきなり現れた私に姿に驚いて飛び退く。
「な、なんだこの野蛮な身なりの女は!」
「野蛮はどっちだ、好き放題言いやがって!!いーじゃない、本が大好きでも!!かっこいいじゃん!!現にそれで道長に出仕をお願いされてるんだからすごいことでしょ!?人が好きなものを簡単に馬鹿にするなーーーー!!」
「ひ、ひかるっ、」
オタクの君が慌てた様子で御簾から声をかけてきて、漸く我に返った私。一方の男は下膨れの顔を真っ赤にして怒り心頭の様子だ。彼は勢いよく立ち上がると、私のことを酷く睨みつけた。
「無礼者め、お前に何がわかる、失せろ!!」
男はこういうと、ドスドスと足を踏み鳴らしながら屋敷から出て行った。
何が「お前に何がわかる」だ、私の方がよく分かってるに決まってるだろ!!
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