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「ということで、この女を世話係として傍に置いてやってください。京の者はまず行かないような片田舎から来た女なので、珍しい話をします。退屈しのぎにはちょうど良いかと。出仕の返事はまた改めてお聞かせくださいね。」
「……。」
そんなこんなで、私は牛車に乗せられて道長の屋敷から別の屋敷に連れてこられた。
制服姿の私を十二単を着た女性たちが舐めるように見つめて口々に囁きあっているのが聞こえる。
「まあ…なんでしょう、あの異様な身なりは。盗賊にしか見えませんわ。」
「道長様より使わされた方が盗賊なはずないでしょう。あんなに髪を短くしているのだから、ド田舎の貧しい尼では??」
「尼があんなに脚を晒すものですか。なんてはしたない格好かしら。」
おい、お前ら全部聞こえてるからな。
私を品定めるする女性たちを無視し、道長は簾の奥にいる女性に向かってニッコリと作り笑いを向けた。
「良い返事をお待ちしておりますよ。では私はこれで。」
「……。」
道長はこういうと、本当に私を置いて一人で帰っていった。残された私は女性たちの冷たい視線をビシバシ感じながら簾の方に目を向ける。
簾の向こうに座ってる人の顔が全然わからない。どんな表情でこっち見てるんだろう、ほんとマジで説得なんて出来る気がしない。てかこの人、道長が何言ってもダンマリ貫いてたよね??道長の娘の世話係になる気、絶対ないじゃん。無理だ詰んだ。私、この人説得しないと元に時代に帰れないなんて無理ゲー過ぎんか?
「あの…」
とりあえず声をかけてみた。すると簾の奥で「ひぃっ!」と小さな悲鳴が聞こえてきて。それを聞いた他の女性たちが何故かクスクス笑っている。
「道長様もいい加減無理だと諦めたら宜しいのに…」
「お方様のあのご気性では宮仕えなど到底できません。」
「頭でっかちというのはほんに冴えませんわねぇ。」
頭でっかち??
私は女性たちの方を見た。
「あの…、簾の中に入ってもいいですか?」
「ええ、お好きなようになさいまし。あと、どこの山奥からいらっしゃったのか存じ上げませんが、それは『御簾』と言いますのよ。大変ですわねぇ、身分不相応な場所にいきなり連れてこられて。ふふっ。」
すごい馬鹿にされた気がする。
ヤな感じ、と思いつつ私は御簾に手をかけた。
「すみません、お邪魔します、」
「え!?あ、えっ、ちょ待っ!!!!」
待ってなんかられるか、こっちは早く令和に戻りたいんだよ。そう思って乱雑に御簾を潜ると、そこにはガタガタ震えて隅っこで縮こまっている女性がいた。
…どした?
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