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「なんでもいいからその宮仕えっていうのやってくださいよ!貴女が宮仕えしないと、私が家に帰してもらえないです!」
「知るかそんなこと!!」
その女はこういうと、私をビッと指さした。
「宮仕えなんかしてみろ、御所勤めのキラキライケイケ女子どもに虐められるに決まってる!!あれだろ!?御所の女って男にモテることとオシャレにしか興味ないんだろ!?そんなとこ絶対に行くもんか!私みたいなオタクが行ったら死ぬに決まってんだろ、ばーか!!」
…道長に言いたいんだけど、お嬢さんの世話係としてこの人は色々と宜しくないんじゃないだろうか。性格とか言葉使いとかその他諸々。ていうかオタクオタクいうけど、この人何オタクなの?
「あの…オタクって何のですか?」
「うるさい、どうせお前も私のことオタク女って笑うんだろ!!山に帰れ田舎者!!」
どうしよう会話を止めたい。こいつムカつく。
私はこれでもかと大きな溜息をついた。
「あーもーっ、笑いませんってば!私だって親にオタクって言われてますもん!!」
「…ほお?」
ここで漸く、この女性が私の言葉にまともに耳を傾けた。しかも心なしかちょっと嬉しそう。
「お前は何オタクなんだ?」
「私のいる世界では絵を描いてるとオタクって言われるんです。それで私も絵を描くのが好きなので、親にそんなことするなって言われて…」
「どこの家の親も子のやることに口を出したがるのだな。私も幼い頃、よく親に注意されたものだ。」
女性はにやけ顔でうんうんと頷く。
そして勝手に自分のことを話し始めた。
「私は本を読むのが好きで、漢籍が得意なんだ。でも周囲の人からはそれを酷く馬鹿にされて…。女が必要以上に賢しいと男に嫌がられるからやめろとか、頭でっかち喪女とか言われて、私はいつも隠れて本を読んでいた。
そのうち自分でも小説を書くようになったんだが、なぜだかそれで道長様に目をつけらてしまって、今すごく迷惑してる…。」
この話してる間にこの女の顔が一気にげっそり疲れた表情になった。
なるほど、この人は漢籍オタクってこと?それとも小説書いてるからオタクにカテゴライズされてるの?この時代のオタクの基準がよく分からない。女性はぎゅっと自分の着物を掴んで、薄暗い笑みを浮かべた。
「ハハハ、ほっといてくれればいいのに。私はここでネチネチとエロスでカオスな小説を書いて、数少ないオタク仲間とそれを見せ合いっこしてブヒブヒしたいだけなんだよ。そんな女に宮仕えとかマジ殺す気か。」
あれ?
でも平安時代って女流文学が盛んなんじゃないっけ??この人、宮仕えした方が輝けるのでは??
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