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「でも、今って女流文学が流行ってるんでしょ??貴女も勇気を出して宮仕えして小説を広く公表すれば、一気に超有名人になるかも!そうですよ、これって自分の作品を世に知らしめる良い機会じゃ、」
「お前、オタクの敵だな!?」
さっきまで萎れていた女性、突然カッと目を見開いた。
そして手に持っていた扇で私の頭を勢いよく殴る。
「いっだ!?」
「そんなオタクに都合のいい展開あるわけないだろ!?どうせみんな私のこと頭でっかちブスオタクって笑うに決まってる!今までだって、そうやって迫害されて生きてきたんだよ、舐めんな!!」
駄目だ、卑屈さがあまりに根深くてお話にならない。
…いや。
確かに、私が同じ立場だったらこの人と同じ反応だっただろう。だって無理だ。親にも馬鹿にされて、学校の友人にもキモがられるような趣味をいきなりオープンにしろって言われたら断固拒否。
「そうですか…。」
私が小さな声でこういうと、女性は苦い顔をして頷いた。
「ああ、そうだ。」
「…てか、ところであなたのお名前ってなんていうんですか?」
そういえばまだ聞いてなかった。
私の質問に女性は勢いよく顔を背ける。
「素性も分からぬ者に名乗る名などない!」
「はあ!?私さっき名乗ったじゃないですか!!」
「あんなもの偽名だろうが!それに名前はおいそれと教えるものではない!」
「偽名じゃないってば!!」
名前も教えてもらえないほど警戒されてるけど、私は道長から寄こされた人間ということもあって、綺麗な一室を与えられることになった。綺麗なのはいいけど枕とかが全部硬くて全然寝た気がしねぇ。
「私、いつ元の世界に戻れるんだ…」
この屋敷にきて3日目の夜、さすがにちょっと泣いた。
帰りたい、切実に。ごはんは口に合わないし、文明が進んでなさ過ぎて不便だし、お風呂に毎日入れないし、ホームシックで禿げそう。からあげ食べたい。
あの人に宮仕えさせるなんて無理だ。だって、私も気持ちが分かる。オタクに陽キャの集団と混じりあえっていうのは、死刑宣告に近い。
でも、あの人の場合は勿体ないとも思う。平安時代について詳しく勉強してないからよく分からないけど、平安時代って枕草子とか源氏物語とか女流文学が花開いた頃で、あの人だって宮仕えしたらもっと自分の小説が評価されるかもしれないのに。
…自分の趣味は全然オープンにできない私が、人に対しては偉そうに「オープンにしろ」っていうのは、自分を棚に上げるにも程があるよなぁ。
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