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ヒガシノさんが帰っても、病室内には肉まんの匂いが漂っているような気がした。
まるでヒガシノさんがいなくても、主張の強さだけ残ったみたい。
しばらくすると今までで最も若い、30代半ばくらいの女の人が、小さな男の子を抱いて、トミナガさんの所にやってきた。
「倒れたって聞いて、慌てて飛んできたの。頭を打ったんだって?私が誰か分かる?」
「カヨちゃんでしょ」
「この子の名前、覚えてる?」
「ケンちゃん」
「ケンの名前も分かるんだ、安心した。あ、私がどういう関係の人か分かる?」
「姉さんの孫じゃない」
「あ〜良かった、ばっちりね」
関係性まで聞いた人は初めてだった。
念入りだなって思う。
それから、まだうまく喋れないケンちゃんが、「あー」とか「ぶー」とか「ひゃっ」とか、声を出して何かを伝えていた。
喋っているようにも聞こえたし、メロディのようにも聞こえたから、歌っているのかもしれない。
小さな子どもでも、病人を前にすると、励ましたいって本能で思うものなのかもしれない。
いつもは静かな病室に、子どもの出鱈目な歌が響くのも、たまには良いな。
ヒガシノさんとはまた種類が違うけれど、確かなエネルギーがそこにあった。
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