麻梨奈(まりな)

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麻梨奈(まりな)

 いったい築何年だろう? 一人暮らしの私の部屋。  大学に入学した年に引っ越して来た時には既に風情のある建物だったから、かなりの年代物なんだろう。  そのアパートの三階に、もう六年半も住んでいる。  大学が近くて便利だったから住み始めた。就職して少々不便になったものの引っ越そうとは思わなかった。  年に一度の花火大会。八月の最後の土曜日に行われる。それが今夜。  土日休みの私は朝から掃除、洗濯、買い物に行って、ちらし寿司を作って枝豆も茹で上がった。ビールも冷えてる。  窓際に小さなテーブルを置いて小皿とお箸、グラスも並べて……。  うん。完璧!  まだ明るい時間から花火の上がる音が聞こえる。青空に薄く見える白い煙。  エアコンを切って窓を全開にして、早く夜にならないかなぁなんて子供みたいにワクワクして。  このアパートに来て初めての夏。長い夏休みに実家へ帰省して、しばらくのんびり過ごして世間のお盆休みがすっかり終わってから戻って来た日に初めて見た花火。この部屋の窓から目の前に広がる花火の大きさに驚いた。  それから毎年、部屋から見る花火は私にとって特別なイベントになった。  寒いのが苦手な私にはクリスマスよりもお正月よりも大切な日。その大切な日には髪を上げて浴衣を着て、大好きなちらし寿司を作って枝豆にビールが恒例。  大学三年の夏から哉太(かなた)と二人で見た花火。  ふとテーブルを見た。グラスも小皿も二人分。  そうだった。今年から哉太は来ないんだった。何やってるんだろう、私……。  半年前に哉太とは別れたのに……。  すっかり暗くなる前に浴衣に着替えた。冷蔵庫から冷えたビールを出して私だけのS席に陣取る。  プシュッとタブを開けてグラスに注ぐ琥珀色の液体と真っ白な泡。シュワシュワと喉を通って行く爽快感は大好き。枝豆の塩加減もちょうどいい。食べ始めると止まらなくなる。 「おいしい」独り言も今夜は寂しくない。  その時、夜空に広がった華麗な花火。 「きれい……」  毎年、その美しさには圧倒される。  それでも何となく物足りなさを感じるのは……となりに哉太が居ないから……。
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