みかんとケーキ

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みかんとケーキ

 アパートに帰ってコンビニのお弁当で夕食。あったかい緑茶を入れてコタツで食べ始めた。  食欲はない。半分も食べられなかった。チーズケーキも冷蔵庫に入れる。  こんな時は、お風呂に入って……。  湯船に張ったお湯が疲れて冷えた体を癒してくれる。 「気持ちいい」  半分眠ったようで長湯をしてしまった。  お風呂から上がって体の疲れは癒えた気がしていた。  でも心の中にシコリのように残っているもの……。  あの女性は誰?   行かなければ良かった。見なければ良かったのに……。知らない方が良かったのだろうか?  哉太のベッドで眠っていた赤みの強い茶髪のロングヘア。ベッドの横には真赤なハイブランドバッグが置いてあった。  考えたくなくても悪い方へ嫌な方へ想像してしまう。  まだ十時。眠くはないけれど、もう休もう。眠って朝起きたら何もかも無い事になっていて欲しかった。  携帯を持った瞬間、哉太からの着信……。 「はい……」 「麻梨奈、みかんありがとう。今、帰って来たんだ。いつ来たの?」 「今朝、出勤前に持って行ったの。哉太いなかったから置いて来た」 「そうか。昨夜は飲み会で、それからカラオケで徹夜だよ。そのまま出勤して、きょうはさすがに疲れた」 「そんなんで仕事出来たの?」 「大丈夫だよ。体力には自信あるから。でもさすがに眠いわ。みかんのお礼だけ言おうと思って電話した。じゃ、おやすみ」 「うん。……あの哉太?」 「何?」 「……ううん。何でもない。ゆっくり休んでね。じゃあおやすみ」  聴けない。聴けなかった。モヤモヤした気持ちをどうすればいい?  哉太は普通のいつも通りの哉太だった。  でももしかしたら……。あの部屋には、哉太の隣りには、まだあの女性が居る? そんな考えたくも無い事ばかりが浮かんで、結局、眠れなかった。  その週末、金曜日の夜、哉太が私の部屋に来た。 「どうしたの?」 「みかんのお礼。ケーキ買って来た」 「珍しいこともあるのね?」 「そうか?」 「コーヒーでも入れるね」  お湯を沸かしてフィルターから落ちる香り高いコーヒー。一人の時はインスタントだけど……。
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