花火

1/1
前へ
/8ページ
次へ

花火

 冬が終わって……春が来て……夏になった。大好きな夏。  そして花火大会……。  ビールも美味しい。枝豆を掴んだらチャイムの音。  もう誰? 年に一度のイベントの邪魔をするのは……。  玄関で「はい」と返事をすると 「秦野です」お隣のおばちゃん。ドアを開けると 「酢の物、作り過ぎちゃって」あったかい笑顔で差し出された。 「いつもありがとうございます」 そう言って受け取った。 「うん。美味しい」  そうだ。思い出した。去年も花火大会の日に煮物を作ったからと持って来てくれた。なんだか可笑しくて笑ってしまった。  五分もしない内に、またチャイムの音。またお隣さん? 「はい」とドアを開けた。そこに居たのは…… 「哉太……」 「今夜、花火だったんだ……」 「どうしたの?」  今頃、何の用? 「入れてくれないかな? 話があるんだ」 「もう話すことなんて無いはずだけど……」 「十分だけでいい。聴いて欲しいことがあるんだ」  花火の音が聴こえている。キッチンのテーブルに向かい合って座って 「髪、切ったんだ。雰囲気変わったな」 「そう?」  哉太を忘れるために切ったのに……。 「麻梨奈、すまなかった。俺が悪かった」 「そんなことを長野から、わざわざ言いに来たの?」 「婚約は破棄した」 「えっ? 破棄って、どうして?」 「初めから彼女と結婚する気はなかった」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加