プロポーズ

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プロポーズ

「とにかく長野に帰って婚約を破棄してからじゃないと麻梨奈にプロポーズも出来ないと思ったから……」 「えっ?」  プロポーズ……? 「まず彼女に会って聴いた。俺と結婚する気があるのか。そしたら彼女、工務店の女将さんになる気はないって。俺の部屋に平気で泊まってったのも子供の頃から知ってる親戚のお兄ちゃんだからホテル代も浮かせるし、だってさ」 「…………」 「後は家の親と彼女の両親を説得しなければいけなかった。親父は彼女の親との約束だから破棄なんてとんでもないって」 「…………」 「でもお袋には、向こうに好きな人でもいるの? って聴かれた。結婚したい人がいるって答えたら、そうだろうと思ったって」 「…………」 「工務店の女将さんになってくれそうな人なのかって聴かれたよ。それは、まだ聴いたことないから分からないって答えた。でもお袋は何も知らずにお嫁に来た私でも何とかなって来たから、心配することは何もないわよって、そう伝えて欲しいって」 「…………」 「昨夜、彼女の両親が家に来て、婚約を破棄してもらいたいと言われた。彼女が親に話したらしい。ついでに今付き合ってる彼も両親に会わせて。その男、県庁に勤めているんだってさ。どうして女は公務員が好きなんだろうなぁ。姉貴の旦那もそうだし」 「やっぱり……。安定してるからじゃないの?」 「安定か。工務店も面白いけどなぁ。まあ大変なのは確かだけどな。本当は昨夜、すぐにでも車で会いに来たかったけど……。きょう大事な打ち合わせがあって、終わってすぐ新幹線に飛び乗った」 「…………」 「麻梨奈、俺と結婚して欲しい。工務店の女将さんになってくれないか?」 「半年も放って置いて、私が別の人と付き合ってたらどうするつもりだったのよ。私、これでも会社でモテるんだからね……」 「あぁ、すごく綺麗になってて驚いたよ。もしも他の奴と付き合ってたら、そいつから奪ってでもプロポーズするつもりでいたよ」 「哉太……どうしてあの時、言ってくれなかったの? 半年前に」 「あの時、何を言っても麻梨奈は聴いてくれなかっただろう? 俺のベッドで眠ってる彼女も見たのに、言い訳したって無駄だと思った。だからちゃんとすべて解決してから会いに来ようと思ってたんだ」 「私が、どれだけ泣いたか知ってるの? 四年も付き合って来たのに……。別れる時って、あんなにも呆気ないものなんだって……悲しかった」 「ごめん。本当にごめん。麻梨奈の気持ち、もっと考えるべきだった」 「哉太……。私なんかでいいの?」 「俺には麻梨奈しかいない。この半年で思い知ったよ」  花火の音が響いていた。窓の向こうに大輪の花が咲き誇って……。  今年の花火大会も一人じゃなかった……。      ~~ 完 ~~
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