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美津子の家は田舎の山奥だった。駅からタクシーに乗ったが、途中で落石があって、道がふさがっていた。
「どうします? お客さん。谷川さんの家はこの道でしか行けませんよ」
運転手に尋ねられた。
でも、美津子も美津子のご両親も俺を待っているんだ。行くしかないだろう。
「一本道なんですよね。歩いたら、どのくらいかかりますか?」
「うん、真っ直ぐ行けば着くけど。歩いたらねえ、うーん、二十分かな」
運転手は首をかしげた。
「じゃあ、行きます」
早めに来たから、歩いても間に合う。
運賃を払って、タクシーが引き返すのを見送ると、まず、落石の間を潜り抜けた。
落石はほんの少しでその先には普通の道が続いている。これなら、大丈夫だ。
と思って、すぐに後悔した。スーツに合わせた靴は山歩きには向いていない。肉刺ができたのがわかる。
携帯電話を取り出してみたが、アンテナは一本も立っていない。
舗装が途切れ、道は砂利道に変わった。
あと、五分。
間に合わなかったら、どうなる?
焦って走り出したが、速度が出ない。足が痛い。もう秋なのになぜ、こんなに暑いんだ。汗が流れ落ちる。
お土産のお菓子の紙袋、その持ち手が汗でよれてくる。
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