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ブーッ。タイムアウトの音が鳴った。走り出す前にアラーム設定した訪問の時間。十一時。
終わった。
もう間に合わない。
落石のところでタクシーと一緒に戻ればよかったんだ。電話の通じるところで美津子に相談すればよかったんだ。冷静に考えればわかるのに。緊張しすぎだ。
でも、遅れても、行くしかない。
走る気力はもうなかったが、前へ進んだ。
馬鹿だ。美津子のお父さんが迎えに来ると言ったのを申し訳ないと断って、タクシーで来てこのざまだ。
ぐちゃぐちゃ、考えながら、進む。
それにしても、家が出てこない。二十分以上歩いている。ああ、きっと、歩いたことがないから、タクシーの運転手は適当な時間を言ったんだ。
でも、倍にはならないだろう。
一歩、一歩、進む。真っ直ぐ行けば着く。美津子の元へ。
道の両側の茂みが深くなり、森の中になった。
何か鳥の声が聞こえる。ガサガサいうのは何だろう。猪?
それとも。
横の茂みから茶色の生き物がぬっと出てきた。大きな体。
熊だ!
逃げないと、逃げないと。
必死で走るが、足がもつれる。
何か吠えている。
美津子。ああ、俺は終わりだ!
「美津子、愛してる!」
俺は前のめりに倒れながら、最後の言葉を叫んだ。
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