1.腹黒いシンデレラ

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 ここは、シンデレラのお話の世界。  継母と義姉に虐げられていたシンデレラが、魔法使いの助けを借りて舞踏会へと出向き、王子と恋に落ちる話。  誰もが知る有名なおとぎ話だ。  物語の中の魔法使い──シゼルはシンデレラの家を訪れていた。  彼は翌日の舞踏会への参加を誘いに来たのだ。  なぜか律儀に玄関から訪ねたシゼルは、美しいブロンドの長い髪を靡かせたシンデレラと対峙していた。  しかし、和やかな雰囲気ではない。  シンデレラの表情は喜びとは程遠く、不信感に塗れている。 「つまり、ドレスとガラスの靴を差し上げるから、舞踏会に参加して欲しい……ということですか?」  シンデレラは鮮やかなラピスラズリ色の瞳を優雅に瞬かせる。  裾が地面につきそうなほど長い紫色のローブを纏い、深くフードを被ったシゼルは、こくこくと頷く。  彼はシンデレラが誘いに嬉々として応じてくれると信じて疑っていなかった。  ──しかし。 「すみません、我が家は勧誘をお断りしています。お帰り頂けますか?」 「え? ちょっ……」  予想外の回答に面食らうシゼルを、シンデレラは帰れと言う代わりに容赦なく扉を閉じる。  シゼルが慌ててドアを開けた。 「待った待った! 勧誘じゃないって!」  今度は扉を閉じられないようにと、シゼルはドアの隙間に足を挟む。  シンデレラは負けじとドアノブを両手で掴んで閉じようとするが、さすがに男であるシゼルの方に分があるようだ。 「そのしつこさも勧誘特有です。無料で高価なドレスと靴を私にプレゼントして、あなたに何のメリットが? 失礼ですが、奉仕活動には見えませんし」  シンデレラは冷ややかな視線を送る。  シゼルがフードを被っているせいでまともにシンデレラの方から顔が見えず、怪しまれるのは当然とはいえ、まるで罪人を見るかのような眼差しだ。
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