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シゼルは完全に引いてしまい、口元を微妙に歪ませて言葉を失ったように黙り込む。
シンデレラはそんなシゼルの反応も楽しみながら続けた。
「それはそれは大喜びして頂けて。それで仲良くなったんですよ。ですから虐められてなどいませんし、この生活から特に抜け出したいわけでもありません。ご理解頂けましたか?」
「い……いや……! ダメだ! 絶対君には舞踏会へ行ってもらう!」
「ふふ、強情ですね。ますます行きたくなくなってきました」
いくらシンデレラの性格が破滅的とはいえ、シンデレラを舞踏会へ連れて行けと神から言われている身である以上、シゼルには説得以外の道はない。
カエルの話をすれば諦めるだろうと踏んでいたシンデレラは、まだ引き下がらないシゼルに疑問を抱いたようだ。
「ですが、なぜそこまで私を舞踏会へ行かせたいのですか?」
「俺の使命だからだ。君は舞踏会で運命の出会いを果たすんだ。君を舞踏会へ連れて行かなければ運命が変わってしまう。俺は君を幸せに導く役なんだよ!」
「つまり、私を幸せにするために舞踏会へ連れていきたいと?」
「そ……そうだ!」
シゼルの躊躇い混じりの返事に対し、シンデレラの瞳に真偽を見極めるような鋭さが宿る。
「ですが、私は今でも十分幸せです。私が幸せなら、あなたの使命は必要ないのでは?」
「いや、それだと君と運命の人との縁がなくなるだろ?」
「それでなくなってしまうほどの薄い縁なら、別にいりませんね」
説得を叩き潰してくるシンデレラに、シゼルはぐぬぬと唸って拳を握り締める。
「くっ……! 君は本当にシンデレラなのか!? もっと儚げで守ってあげたくなるような女性だと聞いていたのに……!」
「誰からですか?」
「神のお告げだ」
「ふふ、なんとも当てにならない神様ですね」
「ぐっ……!」
神をも侮辱するシンデレラに、シゼルはこれ以上の説得材料を持たない。
彼は一旦退却することを選んだ。
「と、とにかく! 舞踏会は明日だ! 俺は必ず君を舞踏会へ連れていくからな!」
「本当に諦めが悪いですね。時間の無駄だと思いますけど」
「きょ、今日のところは引き下がろう。次会った時は覚えてろよ!」
「ふふふふ、まるで悪党の捨て台詞みたいですね」
余裕のある微笑みでシンデレラはシゼルに手を振る。
まるで警戒する猫のように威嚇してから、シゼルは消えていった。
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