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2.渾身の説得
「懲りずにまた来たんですね、詐欺師さん」
「魔法使いだ!!」
翌日、シンデレラの家へ粘り強く訪れたシゼルが玄関先で叫ぶ。
その大声に何事かと近所の住人が窓から顔を覗かせた。
近所迷惑になってしまい、シゼルは慌ててぺこぺこと頭を下げる。
シンデレラは「今日もお元気ですね」と嫌味をさらりとぶつけた。
「昨日もですけど、別にわざわざ玄関から来て頂かなくてもいいんですよ? 魔法使いなんですから、目の前にパッと現れることだって出来ますでしょう?」
「魔法を使って勝手に家に入ったら失礼だろう」
「ふふふ、変なところ律儀ですね。でしたらそのフードを取って顔を見せるのが礼儀では?」
シンデレラがシゼルのフードに軽く触れると、シゼルは慌てて後ろに一歩下がり、両手でガードする。
「や、やめてくれ! このローブは祖母からもらった命より大事なものなんだ! あんまり雑に触れないでくれ!」
「まあ……そうでしたか」
本気で嫌がったシゼルに、シンデレラはすぐに手を下ろした。
少し大袈裟な反応をしすぎたかとシゼルが恥ずかしそうに体勢を直す。
シンデレラはさほど気にしていない様子だ。
「それで、今日はどういった作戦で私を説得しようと?」
その問いに、シゼルは待ってましたと言わんばかりにニッと口角を上げて腰元に手を当てると、演説を始めるかのように手をシンデレラへ向けた。
「これから待っている君の素晴らしい未来を教えてあげようと思ってね」
「ああ……確か舞踏会へ行けば運命の人に出会うのでしたっけ?」
「そうだ。なんとその運命の相手とは……この国の王子なんだ!」
まるで決めゼリフのようにシゼルはビシッとシンデレラを指差して言い放つ。
王子が自分の結婚相手だと知って、喜ばない女性などいない!
そんなシゼルの期待を砕くように、勢いよくドアを閉じられた。
「何でだよ! 喜ぶとこだろそこは!」
シゼルが突っ込みながらドアを開ける。
シンデレラは相変わらず微笑んでいたが、その笑顔にはどこか冷たさが漂っている。
「今の話を聞いてより一層嫌になりました」
「え!? なぜだ!?」
「私、平民ですよ。身分差を乗り越えてどうやって結婚に至るんですか? 普通に考えたら王子様が自分の意思を無理矢理押し通すんですよね、きっと?」
確かに、普通なら平民と王族が結婚など認められることはないだろう。
シンデレラの世界がおとぎ話であるから成立しているものの、実際は何の問題もなく祝福されたとは考えづらい。
「王様や王妃様、更に貴族の反対を押し切って結婚だなんて、苦労がわかりきってるじゃないですか。嫌ですよそんな結婚」
シゼルは神からそこまで詳細にこの後の展開を聞いていない。
シンデレラの言う通り、苦労を全くせずに幸せになるという保証はできないのだ。
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