ツクモガミン

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「なに、ネズミを誘き出す罠を張らせてもらったんじゃ。やはり君はカサブレア社の産業スパイだったか」  対するDr.アベは彼女の眼を真っ直ぐに見つめ、射竦めるようにして厳しい口調で答える。 「な、なんのことかしら? わたしはただ、忘れ物を取りにきただけで……」 「ほう…その後に隠したものが忘れ物かね? 勝手に持ち出したそれが何よりの証拠。すでにこの施設の出入口はすべて固めてある。もうどこへも逃げることはできんぞ? さあ、おとなしくそれを返して投降するんじゃ」  この期に及んでなお惚けようとするアシアであるが、無論、アベの追求が弱まることはない。 「い、いやよ! この〝TMGガス〟の開発はわたしの功績よ! このガスは物質に記憶された情報を惹起させ、ネットワークを構築することで意識を生み出す……これを使えば、まったく新らしいAIも…いいえ、生命すらも作り出せるのよ? なのに、こんな田舎の研究所に眠らせとくなんて宝の持ち腐れだわ!」 「違う! それはみんなで造ったものだ。君だけの力じゃない。それに、もしそのガスが外界に漏れたりなどしたら、いったいどんな被害がもたらされることか……さあ、それをこちらへ渡しなさい!」  最早、言い逃れはできないと悟るも素直に非を認めないアシアを、Dr.アベはなんとか説得しようと試みる。 「いや! ぜったいいやよ! これでわたしは科学史に名を残すのよ!」 「ま、待ちなさい! カサブレラ社はそれを軍事利用するつもりじゃ! 君もそれはわかっておるじゃろう!」  だが、諦めるどころか逃げようと駆け出すアシアを、慌ててアベは掴みかかって止める。 「どう使おうとかまわないわ! とにかくわたしは名声が得たいのよ!」 「目を覚ますんじゃDr.アシア! そんなことをしても歴史に悪名を残すだけじゃ!」  アシアの手にした容器をアベも掴み、揉み合い、言い争いを続ける二人……と、そうこうする内にさらなる悲劇が起きてしまう。 「あっ…!?」 「ああ…!」  なんと、容器がアシアの手から滑り、床に落ちて割れてしまったのだ。
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