4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「──あ〜あ、ついに壊れたか……」
研究所で起きた騒動より一時間ほどの後……山の下に広がる街のとある公園では、骨の折れた白い傘を見上げて若いスーツ姿の青年が嘆いていた。
雨の中、残業を済ませてからの帰り道、彼は近道になるこの公園を通り抜けようとしているところである。
すでに雨は止んでいるが、その悪天候に伴う突風に煽られ、長らく使っていた彼のボロ傘もいよいよ壊れてしまったのだ。
「ま、どうせ安もんだったからな。仕方ない。またコンビニででも買うか……」
青年はボヤきながら公園に設置されたゴミ箱へ近づくと、本当は規則違反であるが躊躇なく壊れた傘をその中へと放り込む。
「そうだ。傘よりも今夜の晩飯買わないとな……」
だが、身軽になった彼がそのまま何食わぬ顔で立ち去ろうとしたその時。
「……ん?」
ポン…と足下へ何かが落ちるのを感じ、見てみるとそれは今捨てたばかりのビニール傘だった。
「なんだ? うまく入らなかったのか?」
仕方なく彼はそれを拾いあげると、改めてゴミ籠へとそれを放り投げる。
「これでよし……っと。さて、何食おうかな……ん?」
今度はしっかりと籠へ収まるのを確認し、それから踵を返して歩き出そうとしたのだが、またしても足下へポン…と捨てた傘が落とされるではないか。
「な、なんだ……?」
ちゃんと入るのを確かめたし、これはもう捨て損じたわけではない……かと言って周りを見回しても他に人はいないし、誰かが投げ返したというのでもなさそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!