ツクモガミン

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「え、ええ……!?」  怪訝に思い、まじまじとその傘を見つめていると、それは不意に宙へと浮かび上がり、折れた骨ながらもバサリ…と浮遊したまま開いてみせる。  そして、半透明のビニール生地に大きな一つ目と巨大な口が浮かび上がると、真っ赤な舌を垂らしながら「ケケケケケ…」と不気味な笑い声を発したのである。  紙とビニールで材質の違いはあるものの、まさに巷でよく知られた伝統的な妖怪〝唐傘おばけ〟だ。  俄かには信じられない現象ではあるが、別にアルコールは飲んでいないし、眠りこけて夢を見ているのでも、酔っ払って幻覚を見ているのでもない。信じ難くてもこれは現実なのだ。 「……う、うわああああーっ…!」  あまりのことに固まった後、一拍置いて絶叫した青年は、一目散にその場を逃げ出した──。
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