2人が本棚に入れています
本棚に追加
公園や粗大ゴミ置き場に限らず、この街は瞬く間に怪異で覆いつくされた……。
壊れた傘達が宙を飛び交うその下では、捨てられた靴や古着のズボン達が行列を組んで大通りを行進し、先刻の廃車の化け物に加えて一つ目の廃バイクも暴走族の如く走り回る。
また、脚の生えたブラウン管テレビや壊れかけのレディオ、廃棄されるはずだったガラケー達は自由気ままにそこらを闊歩し、各々に機械的な騒音を街に垂れ流している。
さらには錆びた自転車に引かれた荷車の上に壊れたレンジが置かれると、目には見えないが開けた扉からマイクロウェーブを無差別に放射し、それを受けた金属が方々で火花を散らしている。
「た、助けてくれえぇぇぇー…!」
「や、やめてえぇぇぇ〜…!」
そんな廃棄物の化けた怪物達は愉快犯の如く街の人間達を追いかけ回し、まさに地獄絵図のような有様である。
古道具の化け物達による大行進……あたかも古に聞く百鬼夜行を想起させる不可思議な現象……。
すべては、山の上の研究所から漏れ出した〝TMGガス〟による影響だった。
Dr.アベらのグループが、陰陽道など太古の呪術を元に生成したこの特異なガス。「物質に記憶された情報に刺激を与え、ネットワークを構築することで意識を生み出す」というその性質により、捨てられた道具達の中に人間への怨みを抱いた心が生まれ、まさに〝付喪神〟と呼べるような怪物へと変化したのである。
Dr.アベの恐れていた事態とは、まさにこのことだったのである!
「た、助けてくれぇ…うぐあぁっ!」
ただ追いかけ回され、恐怖するばかりではない……廃車の怪物に追いつかれた男性が、牙の生えたボンネットの口で頭からバリバリと食べられる。
「く、苦しい……う、ウギャハァっ!」
また、レンジにマイクロウェーブを浴びせられたメタボなオヤジは、不意に身を丸めて苦しみ出したかと思いきや、まるで風船が破裂するようにパーン!と膨らんで弾け飛ぶ。
最初のコメントを投稿しよう!