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セルロイドの恋
ヤバい、ヤバい、ヤバい……。
「だって、アイツが悪いんだ。アイツが……。」
行く当てもなく、夜中の住宅街を走る。手には血の付いたナイフ。
肉にめり込む感覚が蘇り、全身が総毛だった。ガクガクと腕が震える。
「やだぁ、来ちゃったの? コウくん 」
毎週金曜日は、コンビニバイトのシフトは夜だった。だけど、今週は俺の誕生日で、前から店長には休みを貰っていた。
黙っていたのは、付き合っている彼女を驚かせたかったからだ。自分で用意したケーキと、これからもよろしくの意味で買ったペアリング。喜んでくれると思ったのに。
合鍵で彼女の部屋の玄関を開けて、直ぐに目に入ってきたのは俺の物ではない男物のスニーカー。奥の部屋から聞こえる女の嬌声。踏み込んだ奥の部屋で見た、彼女と知らない男が裸で絡み合う姿。
俺の姿を見て、どちらかと言うと男の方が焦っていたと思う。
彼女はというと、少し困った様に男の下で先の言葉を宣っただけだった。
「何だよ、オトコが帰ってくるなんて聞いてねーよ! 」
「あん、帰っちゃうのぉ? 」
「面倒はごめんだって言ったろ 」
金髪で鼻ピアスをした見るからにチャラい男は、ベッドから転げ出て衣服を拾った。大急ぎで下を身に付けると上は着ないまま、ドアの横で立ち尽くす俺にぶつかりながら、部屋を出て行く。
去り際に、「アイツ、オレだけじゃねぇからな 」と捨て台詞を残して。
背後からガチャンと玄関扉が閉まる音がして、俺は我に返った。
「ルコ。これ、何? 」
ベッドの上で気怠げに、でも何も隠そうともせず、彼女は乱れた髪をかきあげながら言った。
「ルコね、コウくんだけじゃ満足出来ないんだよね 」
「どういうこと? 」
「コウくん、いい大学に行ってるし、結婚相手として今から予約しとくのも良いかなって思ってたんだけど…… 」
ルコはこちらを見ようともせず、自分の綺麗に塗られたネイルを見ている。
「大学の研究?とか、話されても意味分かんないし、つまんないし、お金ないから、プレゼントもショボいし 」
ルコの言葉に、愕然とする。『すごいね!コウくんっ!』と嬉しそうに話を聞いてくれたアレは何だったんだ?
大学の勉強の間にバイトをして、大変な思いをしながらも、ルコの喜ぶ顔が見たくてプレゼントをしていた俺は一体。
クスリと浮かべる嫌な笑み。ゾワッと背筋が冷たくなった。
「それにコウくん、エッチ、ヘタじゃん? 」
カッと全身が熱くなった。
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