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②
授業中、後ろの席の男子が、「トイレ」と言って、おもむろに立ち上がる。教室のドアに向かうが、教員は、何も言わず教科書を、お経のように読んでいる。
男子は、裕子の隣を通りざま、親指と人差し指で輪を作り、裕子のこめかみをはじいて、振り返りもせず教室を出て行った。
「い!」
こめかみを両手で抑える、裕子。痛みを増幅するように、髪を数本握りしめて引き抜いた。バキッと音がするほど歯ぎしりをする。
それが、きっかけで急な腹痛を覚えた。裕子は教壇で、教科書を見ながら何事が唱えている教員に向かって手をあげた。
「は、吉原、何?」
顔を上げて、眠そうな目で裕子を見る。真夏でもスリーピースを着ている国語の男性教員。
「すみません、お腹が痛いので、保健室に行ってもいいですか?」
「は? 今は授業中だからダメ―。って、あー、うそうそ。ついでに、トイレで、うんこもして行け。で、お前今日は、アレの日か? だったら、もう教室には帰ってこなくていいぞ」
真面目な顔をして、浮かれた声をだす。
だいたい、男性教員が、女子に向かって、『うんこもして行け』とか『アレの日か?』なんて言う? 教室に帰ってこなくていいって……ずっと、教室には戻るなって事? 背中にのしかかるモヤモヤ感に抗って裕子は席を立った。腹痛も増してくる。
教室のドアを出る時に、後頭部に消しゴムの破片が、何個かあたった。投げてくる奴は、わかってる。裕子はうつむいて教室を出た。
保健室に向かう裕子が、男子便所の前を通り過ぎようとした時だった。
さっきトイレに立った男子生徒が、裕子の腕を掴んで、男子便所に引っぱり込んだ。
「何!」
驚きと恐怖、嫌悪と危険な予感。
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