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①
朝、梅雨入り前の6月。
高等学校の校門。右から左から、生徒が校内に吸い込まれていく。
吉原 裕子は、イヤホンを取って、ポケットにしまった。生徒指導の教員が、腕組みをして、通り過ぎる生徒を、ヘラヘラと眺めている。
ふと、裕子は、背後から2人の女子生徒が、近づいてくる気配を感じた。2人は、裕子の両側から追い抜きざま、背後から裕子のボブヘアを掻き上げ、前方に足早に遠ざかる。
「もう……」
裕子は、驚いて立ち止まり、歩き去る二人を見た。裕子などいなかったかのように談笑している。チラリともこちらを見ない。震える手櫛で髪を直す裕子。ふと、顔を後ろに向けると、男子生徒が立っていた。
「あ」
とだけ言って、裕子を見て立ち尽くしている。2年5組、同じクラスの戸田 比呂人だ。頭を丸刈りにして、真面目な男子。
裕子は、
「あの女子2人……腐ってる」
と、小さく呟いて学校に向かう。
いつもと同じ朝。靴箱を開けると、空き缶やたばこの吸い殻、ファストフードのゴミが、バラバラとあふれ出てくる。裕子は、靴脱ぎ場にあるロッカーの箒と塵取りで、ごみを片づける。道具を、ロッカーに放り込み、スチールのドアを、力一杯閉める。暗い靴脱場にバシンッと鋭い音が響いた。
「ふざけてる」
呟くと、裕子は上靴を履いて、教室に。
授業の始まる前の教室。しゃべる者はいない。皆スマホをいじっている。
裕子は、自分の席に着こうと、椅子を引く。座面に、剣山が置いてあった。それを摘まみ上げ、教室の後方にあるゴミ箱に捨てる。
「狂ってる」
裕子が、席に座ると教員が教室に入って来た。授業が始まる。
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