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④
「はあ……私に何か、御用ですか」
裕子は、立ち上がる。
「うん。お姉ちゃんは、今日から潮柱 孤邑って名のりなよ。そう、しおばしら こむら」
何を言い出すのか、この老人は。名前を変えろと言う。占い師か何かなのだろうか……。いきなり言われても……気持ちが悪い。ひたすら早く帰ってほしいと思う裕子だった。
「はあ、意味が分かりません。何で、改名をしなきゃいけないんです。お爺さん占い師? 本当に誰?」
「大丈夫、ご両親には、おいらから、ちゃんと話しとくから」
「いや、そんな問題じゃないと思いますけど……」
「潮柱孤邑だよ。いい名前だろ」
「何、お爺さん、本当に、誰? ちょっともう、出て行ってもらえます!」
裕子は、このわけの分からない状況に、耐えられなかった。明らかに苛立ちを含んだ言葉を投げつける裕子。小庵は、トコトコと裕子の机の所に行くと、読みかけだった本を手に取った。黒い表紙の分厚い本。
「孤邑ちゃん、本を読んでいたんだ。あ、聖書じゃないか。そっか、孤邑ちゃんは、クリスチャンなんだ。どこを読んでいたのさ。ええ、旧約聖書『創世記』18章と19章かあ」
小庵が、小さな文字を、指でなぞりながら読み始める。ふふんと笑って、
「悪徳と頽廃の街。ソドムとゴモラのお話だね」
と老人の声で言うと、裕子を見た。続けて、また子どものように話しだす。
「神様は、自分が作った人間に自由意志をあげたんだよね。でも、ソドムとゴモラって街の奴らは、自由すぎて、不道徳で邪悪な奴ばっかりになっちゃったんだな。アホだね。そんで、そいつらに神が天罰を下すって、えぐい話だよなぁ。まあ、人間て、ほっといたら、わけのわかんないことをするからねえ、でも、街ごと硫黄と火でぶっ壊さなくてもいいのにねえ」
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