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⑥
胸が、苦しい、ムカムカする。我慢の限界。裕子は、トイレに駆け込み、思い切り吐いた。胃の中の物を吐瀉するたびに、急激に腹筋が緊張し、痛みを覚える。しかし、吐き終わった後に、大きく吸い込む空気は新鮮で、体が緩むのを感じた。
「はあ、はあ……。クソ! バカヤロー!」
異様な臭いを放つ吐瀉物に向かって叫ぶ。胸が軽くなるとともに気分も爽快になった。父も母もそんな裕子の様子には気づかないようだった。
その夜、裕子は高揚し、ベッドの中で、含み笑いが止まらなかった。
「うふ、ふふふふふふふ」
朝、テレビの天気予報士が、梅雨入りを宣言する。
校門前の雲は厚いが、雨はふっていない。ただ、蒸し暑く、裕子はハンカチで額の汗を拭いた。
今日も背後から2人の女子生徒が近づいてくる。1人が、背後から裕子のハンカチを掴んで、ひらひらと振って広げる。ごみを捨てるようにハンカチを手放した。地面に落ちるハンカチ。
2人の女子学生は、裕子の顔も見ずに、校門に向かう。
裕子は、ハンカチには見向きもせず、走って2人に近づくと、髪の毛を後ろから鷲掴みにした。
「きゃああ!」
驚いて叫びながら、髪を掴んでいる裕子の手をほどこうとする。
裕子は、2人の髪を持ったまま、右に左に振り回した。
「痛い! やめて! おい! やめろ! ばか!」
叫ぶ女生徒の声で、騒動に気づいた生徒が、数人振り向いたが、驚いた顔で遠巻きに見ているだけ。
ようやく、校門に立っていた生徒指導の教員が、慌てて走って来た。
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