15人が本棚に入れています
本棚に追加
⑦
「こら、何をやっている! やめんか!」
体格のいい、シャツを腕まくりした教員が、裕子の両手をつかんだ。
「その手を髪の毛から離せ! 離さんか!」
「ちっ」
舌打ちをして、裕子は手を開いた。指に髪の毛が汗で付着している。解放された2人の女子生徒は、後頭部の頭皮を押さえて、裕子を睨みつけた。
「何するのよ! メンヘラ女!」
1人が、涙を流して、鋭く裕子を突き飛ばした。2、3歩後ろによろけた裕子だったが、ふんばって女子生徒に近づき、その顔にベッと唾を吐いた。
「きゃ!」
「こらあ! やめろ!」
生徒指導教員が、大きな手で裕子の顎をつかむ。騒ぎを聞きつけて数人の教員が、応援に駆け付けた。
「おう。先生方、俺はこいつを生徒指導室に連れて行く。そっちの2人を頼む。教育相談室で、聞き取りをしてくれ」
しくしくと泣いている2人の女子生徒を連れて、教員が校門に向かった。
「愚か者」
裕子は、小さく呟いて、落ちていたハンカチをひろう。パタパタとはたいて、丸めてポケットに突っ込んだ。
歩きながら、生徒指導教員が、裕子に声を掛けた。
「お前、2年5組の吉原裕子だよな。大人しいお前が、何でこんなことを……」
「大人しい? 先生、毎朝、私がいじめをうけていたことを見てたでしょ。なぜ何も言ってくれなかったんですか……。卑怯者」
「いや、何のことが……。わからんなあ」
「臆病者」
裕子は、生徒指導室に連れていかれた。
今朝の出来事に関する、生徒指導上の処分が決まった。
裕子は、暴力行為で停学7日。
裕子のハンカチを地面に捨てた女子生徒は、いやがらせ行為で停学3日。
もう一人の女子生徒は、見ていただけなので校長注意になった。
その日は3人とも、保護者に引き取られて帰宅した。
吉原家は、母が学校に来た。裕子の母は、担任の教諭から説明を聞いている時も、車で家に帰る途中でも、一言も発しなかった。
最初のコメントを投稿しよう!