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「こら、何をやっている! やめんか!」  体格のいい、シャツを腕まくりした教員が、裕子の両手をつかんだ。 「その手を髪の毛から離せ! 離さんか!」 「ちっ」  舌打(したう)ちをして、裕子は手を開いた。指に髪の毛が汗で付着している。解放された2人の女子生徒は、後頭部の頭皮を押さえて、裕子を睨みつけた。 「何するのよ! メンヘラ女!」  1人が、涙を流して、鋭く裕子を突き飛ばした。2、3歩後ろによろけた裕子だったが、ふんばって女子生徒に近づき、その顔にベッと唾を吐いた。 「きゃ!」 「こらあ! やめろ!」  生徒指導教員が、大きな手で裕子の(あご)をつかむ。騒ぎを聞きつけて数人の教員が、応援に駆け付けた。 「おう。先生方、俺はこいつを生徒指導室に連れて行く。そっちの2人を頼む。教育相談室で、聞き取りをしてくれ」  しくしくと泣いている2人の女子生徒を連れて、教員が校門に向かった。 「(おろ)か者」  裕子は、小さく呟いて、落ちていたハンカチをひろう。パタパタとはたいて、丸めてポケットに突っ込んだ。  歩きながら、生徒指導教員が、裕子に声を掛けた。 「お前、2年5組の吉原裕子(よしはらゆうこ)だよな。大人(おとな)しいお前が、何でこんなことを……」 「大人しい? 先生、毎朝、私がいじめをうけていたことを見てたでしょ。なぜ何も言ってくれなかったんですか……。卑怯者」 「いや、何のことが……。わからんなあ」 「臆病者」  裕子は、生徒指導室に連れていかれた。  今朝(けさ)の出来事に関する、生徒指導上の処分が決まった。  裕子は、暴力行為で停学(ていがく)7日。  裕子のハンカチを地面に捨てた女子生徒は、いやがらせ行為で停学3日。  もう一人の女子生徒は、見ていただけなので校長注意になった。  その日は3人とも、保護者に引き取られて帰宅した。  吉原家は、母が学校に来た。裕子の母は、担任の教諭から説明を聞いている時も、車で家に帰る途中でも、一言も発しなかった。
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