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⑧
裕子は、自宅に着いたときに、
「おい」
と、母に言ったが、母からの返答はなかった。
裕子は、自室に戻って椅子に座る。心のざわつきはない。寧ろ明鏡止水の心境だった。
「おかえり。孤邑ちゃん」
小庵の声。もはや、この老人、ただの人間ではないと悟る裕子だった。人ならざる者の気配だが、空気のような存在に思えた。
「あんたは何? 何かの神様? 悪魔? 物の怪? 私に何の用なの」
「あは。別に用はないけど。孤邑ちゃん、ストレスが溜まっているみたいだったからさ」
「そんな人、この世の中に沢山いるのに、なんで私のところに、あんたが来るのよ」
「孤邑ちゃん、なんか怒っているからさあ」
「…………うん。そうだ。私は、怒っていたんだ。すごく怒ってた。何もかもに。あんたに会ってそれに気づいた」
「でしょ。でしょ。だからさあ。すっきりしようじゃない」
小庵は、ストンとあぐらをかいて座った。
「え?」
「あした、学校をぶっ壊そう。ソドムとゴモラみたいに」
「はあ? 私、神様じゃないし。どういうこと」
「あははは。そうだよね。孤邑ちゃんは、神様じゃないよね」
「そう。それにいくらぶっ壊すって言っても、爆破したり、火を付けるなんてだめだよ」
「おっと、そのぐらいの理性は、あるんだね。じゃあこれでいこう」
小庵は、懐から1リットルのプラスチックボトルを2本取り出した。
「このボトルの液を混ぜるとねえ。卵の腐ったような臭いが発生するすんだ。硫黄の代用だね」
「それって、人が吸って危険性は無いの?」
「まあ、いい臭いじゃないからね。気分は悪くなるかもね。でも、硫黄に包まれたソドムとゴモラ的な雰囲気はだせるよ」
「その2液を混ぜながら、廊下に撒くのね」
「そうそう」
「硫黄の異臭にクラスのみんなは、驚くってわけだ……ってこれってテロっぽくない?」
「あはは、そうかも。でもみんなビビるよ。人間性丸出しかもね」
「そうだ。丸出し! いい。お爺さん私やるよ。そのボトルちょうだい。明日、やってやる」
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