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⑨
「え? 孤邑ちゃん、今、停学中でしょう。学校に行っちゃだめじゃん」
「何、その順法精神あふれるような言い草は。どうせ私が学校に行っても、誰も気がつかないか、無視するだけだし。皆が登校して授業が始まったら、やってやる」
小庵は、2本のボトルを裕子に渡しながら、
「もし、学校に10人の正しい人がいたらやめるかい」
真顔で尋ねる。
裕子は、ボトルをひったくるように奪う。
「いるわけないじゃん。10人もいたら、こんなことすら考えないし」
「孤邑ちゃんに、一蹴されたね。ちょっとさびしいな」
「お爺さんていい人なの? 悪い人なの?」
絶対悪人だと思っていた小庵の答えに、裕子は戸惑いを覚えた。
「おいらは、人間が、ワケも分からず、右往左往するのを見るのが、好きな人なんだな。めちゃくちゃ面白くてさあ。孤邑ちゃんもそう思わない?」
全然、そうは思わないと答えて、裕子はボトルを通学カバンに押し込んだ。振り向くと、小庵はいなかった。
翌日、登校時間を外した午前10時。申し訳程度の、セキュリティのため正門は閉めてある。
裕子は、正門とは逆の位置にある、通用門から校内に入った。ここには、防犯カメラが設置されているが、職員室でモニターを見ている教員はいない。もし見ていても、裕子の姿には、気づかぬふりをするに決まっている。
裕子は、カメラにピースサインをして挑発する。緊急用のドアから、土足で校舎内に入る。
「さて、どこに撒こうかなあ。やっぱ、うちの教室の廊下がいいな」
2年5組である裕子の教室は1階にある。教室に向かう途中、さぼりの男子生徒や女子生徒と出会ったが、みんな同じポーズ。前かがみで、スマホをいじって、ふらふらと歩いていた。もちろん裕子には気づかない。
「バーカ」
裕子は、すれ違う生徒の背中に向かって、いつもとは違う大きな声で言った。それでも誰も反応せず、行ってしまった。
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