おとぎ話の中で愛して

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 突然の出来事に、目をまん丸にして手を喉元へと運ぶ。 ――あれ、息が、できない。 これがいわゆる、生きるか死ぬかの瀬戸際ってやつで、いつかは誰しも経験するものかもしれないやつで、それがなぜ今だというの。 普通の人生を普通に生きてきて、普通の幸せを手にしたいと願う普通のOLのあたしが、突如として生死の瀬戸際に立たされる真っ当な理由を教えて欲しい。でなければ納得がいかない。 まだ両親を安心させるような報告もできてなければ、むしろタイムリミットが刻々と迫ってきていて、ババ抜きで「諦める」というカードを引き当ててしまって最後まで手元に残って困っている状況なのに、神様はそれすら不憫に思ってはくれないようだ。 ただ、おとぎ話みたいな出会いに憧れただけ。 それがそんなにいけないことだったのだろうか。 戯言を言う不届き者に天誅を下そうとでも言うのか。 パニックと言えばパニック、冷静と言えば冷静な頭の中でいろんなことが巡り、走り抜けていくのを、なるほどこれが走馬灯なのかと思いながら、フォークがブレない軸で回転をかけながらゆっくりと床へ落ちていくさまを眺めた。 気が遠くなりぼんやりとする視界の中、清潔感のある白いシャツに深い紺色のソムリエエプロンの、無駄に素敵な店員や、今の今まで二人の世界にいたカップル客たちの視線が、一気に集まる。きっと床とフォークが奏でた高い音に反応したのだろう。 こっち見ないで、びっくりさせてすみません、いつまでも夢見ててごめんなさい、あたし、今、助けて。 ――苦しい……! だ、誰か……。
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