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本当に不思議な女だった。
人がごった返す繁華街を歩いているのに、人を避けたり、ぶつかったりせず、誰も歩いていない場所を歩いているかのような足取りで街の中を抜けていく…。
やがて、人もまばらな裏路地に入り、あるお店に入っていった。
扉はよくある簡素な木製…。扉の横には、申し訳程度に照らされた、看板が付いている。
Black Lilly……
ブラック、リリー……って、黒百合…?あの「呪い」とか「復讐」とかいう花言葉の…?
麻理は、入ってみようか悩んだが、結局はやめる。
店が怪しすぎると言うのもあるが、後をつけてきたと思われるのが嫌だったからだ。
麻理は、元来た道を戻り、雑踏の中へと戻る。
真っ直ぐ歩けない人の波と、夜なのに明るいネオンの渦。そして、雑多な音……。
なんだか急に「現実」に戻って気がして、例の女は幻だったかのように思えてくる。
「あれ…?麻理?麻理だろ?」
突然呼びかけられて振り返ると、そこに立っていたのは一人の男だ。
同じくらいの年齢だろうか…そこら辺で遊んでいそうな、一見すると「軽い」印象の男…。
一瞬、知らない男だと思ったものの、その妙に懐っこい笑顔に見覚えがあった。
「輝明…」
従兄弟の輝明だ。
「そういや、麻理もこっちにいるって言ってたもんな。こんなとこで会うと思わなかったけど。一人?誰かと待ち合わせか?」
「ああ…さっきまで友達と飲んでたんだけど、友達に用事が出来て、別れたとこ。輝明は?」
「あ〜。俺も似たようなとこ。そこでダチと飲んでて、カラオケ行くって言ってたけど、気分じゃないから抜けてきた。ん〜ならさ、これもなんかの縁だし、二人で飲みにでも行くか!」
随分と軽い誘いではあったが、まだ帰る気分ではなかった麻理にとっても、悪い提案ではなく、二人で夜の街を歩き出した……。
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