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「………はぁ?」
会社近くのカフェで、久しぶりに彼氏と待ち合わせした麻理は、ちゃんとメイク直しもして久しぶりにデート気分だった。
が、彼氏は席に着くなり、信じがたいことを言い出した。
「だから、麻理と少し距離を置きたいって言ったんだよ」
「ちょっと、訳がわからないんだけど!」
「そう言うことだから。じゃあ、俺行くわ」
言いたいことを言って、彼氏は店を出て行ってしまった。
麻理は席に座るが、コソコソとこちらを伺うような視線や話し声が、神経を逆撫でする。
ゆる…せない…っ!
ぎりっと奥歯を噛み締め、握りしめた手を震わせる。
「麻理…?」
声をかけてくる男が一人…。
「…は?輝明?なんでこんな所にいるのよ!?」
「いや…昨日相当飲んでたみたいだったから、心配になって麻理の会社に行こうとしたら、ここに入ってくのが見えたもんだから…」
どうやら、先程のやり取りを聞いていたらしい。
「その…大丈夫か…?」
「はぁ?!大丈夫な訳ないでしょ!」
席を立ち、その勢いのまま店を出て歩き出す麻理を、慌てた様子で輝明が追いかけてくる。
「おい!麻理!待てよ!」
「………」
振り返りもせずに歩く麻理の腕を掴んだ輝明は、麻理の前へ回り込んだ。
「待てって!どこに行くつもりだよ?」
「…様の所…」
「え?」
「影喰い様の所よ」
「あの、自分の影と引き換えに願い叶えてくれるっていう噂の…?」
「そう、私は知ってるの」
麻理の脳裏には、黒いイブニングドレスを纏ったあの美しい女の姿があった。
「影喰い様なら、どんな願いも叶えてくれる…」
麻理の顔に、歪んだ笑みが浮かぶ。
「そんな都市伝説みたいなもん、信じるのか?仮に本当だったとして…何をお願いするつもりなんだよ」
「…あの女、また顔を合わせるなんて絶対嫌。だから私の目の前に現れないようにしてもらうの」
「やめておけよ。麻理だってただでは済まな…」
「それでもいい!思い知らせてやるのよ!」
輝明が止めるのも聞かず、麻理は歩き出す。
一回目の願いを叶えてもらった時も、体に大した影響は無かった。今回だってきっと大丈夫。影だって良く見なければわからないだろう。
目に爛々と光る欲望を、口元に歪んだ笑みを宿した麻理は迷いなく歩を進める。
「おい!俺は、一応止めたからな!!」
輝明の言葉も、麻理には届いていなかった…。
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