二口目 黒百合の女

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 「………はぁ?」  会社近くのカフェで、久しぶりに彼氏と待ち合わせした麻理は、ちゃんとメイク直しもして久しぶりにデート気分だった。 が、彼氏は席に着くなり、信じがたいことを言い出した。  「だから、麻理と少し距離を置きたいって言ったんだよ」  「ちょっと、訳がわからないんだけど!」  「そう言うことだから。じゃあ、俺行くわ」  言いたいことを言って、彼氏は店を出て行ってしまった。  麻理は席に座るが、コソコソとこちらを伺うような視線や話し声が、神経を逆撫でする。  ゆる…せない…っ!  ぎりっと奥歯を噛み締め、握りしめた手を震わせる。  「麻理…?」  声をかけてくる男が一人…。  「…は?輝明?なんでこんな所にいるのよ!?」  「いや…昨日相当飲んでたみたいだったから、心配になって麻理の会社に行こうとしたら、ここに入ってくのが見えたもんだから…」  どうやら、先程のやり取りを聞いていたらしい。  「その…大丈夫か…?」  「はぁ?!大丈夫な訳ないでしょ!」  席を立ち、その勢いのまま店を出て歩き出す麻理を、慌てた様子で輝明が追いかけてくる。  「おい!麻理!待てよ!」  「………」  振り返りもせずに歩く麻理の腕を掴んだ輝明は、麻理の前へ回り込んだ。  「待てって!どこに行くつもりだよ?」  「…様の所…」  「え?」  「影喰い様の所よ」  「あの、自分の影と引き換えに願い叶えてくれるっていう噂の…?」  「そう、私は知ってるの」  麻理の脳裏には、黒いイブニングドレスを纏ったあの美しい女の姿があった。    「影喰い様なら、どんな願いも叶えてくれる…」  麻理の顔に、歪んだ笑みが浮かぶ。  「そんな都市伝説みたいなもん、信じるのか?仮に本当だったとして…何をお願いするつもりなんだよ」  「…あの女、また顔を合わせるなんて絶対嫌。だから私の目の前に現れないようにしてもらうの」  「やめておけよ。麻理だってただでは済まな…」  「それでもいい!思い知らせてやるのよ!」  輝明が止めるのも聞かず、麻理は歩き出す。  一回目の願いを叶えてもらった時も、体に大した影響は無かった。今回だってきっと大丈夫。影だって良く見なければわからないだろう。  目に爛々と光る欲望を、口元に歪んだ笑みを宿した麻理は迷いなく歩を進める。  「おい!俺は、一応止めたからな!!」  輝明の言葉も、麻理には届いていなかった…。  
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