二口目 黒百合の女

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 麻理は、人がまばらな裏路地にある簡素な木製の扉の前に立っていた。  「Black Lilly」…黒百合の名を持つあの店だ。    この扉の向こうに、影喰い様がいる。  麻理は軽く息を吐き出すと、木製の扉を開けた…。    「いらっしゃいませ」  落ち着いた…というか少々冷たく聞こえる程落ち着いた若い男の声が、麻理を迎える。  店内は、かなり照明が落とされていて薄暗い。  入って右手には年季が入った木製のカウンター席。  奥には数席ソファー席があるだけの、そう広い店内ではない。  店内にいるのは、数人の従業員。  全員男性。黒いワイシャツに黒のスラックス。そして黒のベストという全身黒づくめで、妙に見目の良い者しかいない。  入ったものの、雰囲気に飲まれて動けなくなってしまった麻里に、再び声をかけてくる。  「あの…」  麻里がその店員に目を向けた瞬間、シルバーフレームのメガネをかけた店員の目が、スッと細められた。  「…お客様、ご予約されていますか?」  「…え?」  麻理はそんなことを言われるとは思わず戸惑う。だがそこに…  「あら…あなた…」  そこに、ふくよかな百合の香りを思わせるような甘い声が響く。  そこには、いつの間にかあの時の女が立っていた。  影喰い様……!!  雰囲気に飲まれていた麻理の瞳が、再び己の欲望を取り戻す。  「わ、私!あなたにお願いがあるんです!」  女に詰め寄る麻理を店員が止めようと動くが、すっと動いた女の視線と受けると、動きを止めそれぞれの業務に戻ってゆく。    「私に、お願い…?」  淡く微笑みながら首を傾げる女に、麻理は更に詰め寄る。  「はい!に、またお願いしたいんです!それで…!」  更に話そうとした麻理の唇に、女が人差し指を優雅な仕草で差し出す。  「…何かをお願いするならば、それに見合う対価(ごほうび)が必要になる…それは、わかっている…?」  「……ええ!だから!あの目障りな女、見なくていいようにして下さい!」  一気に捲し立てて荒く息をつく麻理を、女はただ、見ていた。温度の感じられない目で…。  そのうち、麻理の視界がぼんやりと濁り始める。  女の艶やかな唇が、言葉を紡ぐ。  「あまり大きなを、ねだると…大変よ?」  麻理の意識はその言葉を最後に、とけてしまった……。    
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