妻の誕生日を忘れた日

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 写真立てを前にして動かない真希に、励ますような口調で良二は言う。 「真希がお義父さんにハンカチ持たせてたんだから、大丈夫じゃないか。それに、お義父さんに何十年も連れ添ったお義母さんがいるんだ、お義父さんを迎えに来てくれるだろ」  良二の言う通りだ。  あの父のことだから、自分が死んだことにも気がついていないだろう。自分がどういう状況かも分からず、純粋に誕生日プレゼントを当日に母へ渡せなかったことを気にして焦っているに違いない。  その父とずっと一緒にいた母のことだ、迎えに行くだけじゃなく、フォローもしてくれるだろう。  それに、父が選んだハンカチは、父が母に会ったときに渡せるようにと、火葬前の父の左手に私が持たせたんだ。母への気まずさも緩和されてくれなきゃ困る。 「そうよね、向こうにはお母さんがいるんだから、大丈夫ね」  良二にそう答えると、夏の気配がまだ残った風が窓から入り込み、仏花の花びらを揺らす。それはまるで、母が笑って「大丈夫よ」と答えてくれたような、そんな気が真希にはしたのだった。
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