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10 いや待てパニック
『なあ高村、お前今、何処に居る?』
低い声が問いかけてくる。
「え、あ…… 今、……帰ったとこ」
そうか、と短く答えると、数秒間が空く。
「おい、佐久田」
『高村』
いつもより凄みのある声に、思わず「あ、はい」と俺は即座に返してしまう。
『お前、今からそこ動くなよ。今から俺、そっちへ行く』
ぶっ、と通話の切れる音。
気が抜ける。
だけど頭の中はやはりまだ大混乱。
部屋に入るにも、鍵を何度も間違えたほど。
荷物と上着を放り出し、カーペットの上に手足を投げ出して、あらためて佐久田と交わした会話の意味を考える。
赤紙が来た。
俺もだ。
飛び起きる。
おいおい、アイし合ってるカップルの所に赤紙は来るんだろう?
絶対間違いだ。
何と言っても、俺達は壁越しに分けられてない。
幼なじみなんだ。
幼稚園の入園式で奴が俺の髪を引っ張って泣かせて以来の。
以来、奴と俺は小中高と同じ学校に通ってきた。
そう言えば、クラスや部活が違うことはあっても、登下校が一緒になることも多かった。
休みとなれば、何かとつるんで遊んでいた。
そして今もまた、同じ大学に通っている。
住処も決して遠くない。
飛んで三分、歩いて五分といったところだ。
週末になるとどちらかの部屋で新しく配信された映画を徹夜で見るのも日常茶飯事だ。
そんな時にはメシも作り合う。
ただし俺の作る方が多い。
喜んでもらえるのが嬉しくて、ついつい気合いが入る様になった。
気が付いたらレパートリーがずいぶんと増えていた。
俺の部屋には鍋やら調理器具、時には調味料やら香辛料がどんどん増えていった。
あれ? そう言えば最近俺の部屋に来る回数の方が多いのはそのせいか?
それにしても十分? 十五分?
歩いて五分の所で何手間取ってんだ。
うろうろとキッチンを歩き回る。
うろうろぐるぐる。
果たして十五分後、がんがんと階段を上る音が耳に届いてきた。
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