11 何でそんなとこ細かいんだ

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11 何でそんなとこ細かいんだ

 ぴんぽんぴんぽん、と奴は恐ろしい勢いでチャイムを押すと、ドアの前で怒鳴った。 「おい高村! ちゃんと居るか!」  慌てて俺はドアを開ける。  何やら手には大きなバッグ。 「……い、居るよ…… 入って」  奴はキッチンのテーブルに近付くと、放り出したままの赤紙に視線をやった。 「あ……」  それに俺が気付いた時には赤紙は既に奴の手の中だった。  奴は眼鏡のブリッジを軽く押すと、封の中を神妙な顔で確かめる。  そして内ポケットに手を突っ込み。 「ほら」  同じ色、同じ形の封筒を取り出した。 「お前のことだから、嘘だろうとか何とか、ぐるぐる考えてると思ってたけど」 「別に」  ぷい、と横を向く。  その顔を掴まれ、ぐい、と元に戻される。 「やっぱり考えてたんだろう?」  そう言ってふっ、と笑った。 「考えてたら悪いか?」 「悪くない」  もう一度首を振って、その手を離す。  すると今度は手首を。 「本物だよ」  奴は空いた方の手にした赤紙を二つ、ひらひらと振ってみせる。 「……そんなこと無い」 「何で」 「何でって」  声が詰まる。  目を逸らす。  奴は続ける。 「俺が好きなのはお前なんだから、これは本物だろ」  うああああああ。  直球で来やがった。  掴まれた顔全体の温度が一気に上がるのが判る。  そして俺に来た方をかざし。 「お前は?」  最後通牒を突き付けやがった。 「いや、あの! だけど! 俺達幼なじみだろ? お前ずっと俺のご近所だったじゃないか!」 「……それについてはさっき親に電話して聞いてみた。俺の本籍は、残念ながら向こう側だった」  へなへな、と腰の力が抜けるのが判る。  考えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる様な「戦争」なのに、何でそんなところばかり、変に細かいんだ!?
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